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□宿題を忘れるな!
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真夏の昼下がり。気温は絶賛上昇中。
そんな中、零と涯がカイジを…否、カイジの家を訪ねてきた。


「いきなり何かと思ったらよぉ…宿題ってなんなのお前ら」


机の上いっぱいにノートやらワークやらを広げて、零は照れた風にえへっと笑った。涯は姿勢を正してその横で正座し、申し訳なさそうにしている。
誰か見ても分かるように、零が涯を連れてカイジの家に来たのだ。涯がうなずいたのかさえ怪しい。


「ほら、もう夏休み終わっちゃうだろ?」
「世間的にはもう終わってるけどね」
「…、だから宿題終わらそうと思って!」
「世間的にはもう遅いけどね」
「なんなのしげるお前なんでここにいるの!」


くくく、と喉を鳴らしてしげるが笑う。頬杖をついて、またにやりと笑った。
カイジの横で当たり前のように座っているしげるは言わばカイジ家の大黒柱。家賃、生活費を支払っているのは実のところしげるが9割、カイジが1割なのだ。カイジの数少ない給料は大抵給料日にほとんど賭博に飛ぶ。そのためカイジの明日を守るためにもしげるが命を賭けてギャンブルするのだ。生きるために命を危険に晒すとはこれいかに。


「細かいことは気にするな」
「うぜえ」
「しげるは宿題終わってるのか?」


涯が痛いところをついた。


「宿題なんて…気分じゃないんで…」
「やれよ」
「しげる!終わったって言ったよなお前っ…!」


どうやら嘘を吐いていた様で、カイジは溜め息を漏らして項垂れた。
学生の宿題はどこの学校も大体多い。これを短期間で終わらすと2人は言うし。無理にも近いその作業をしげるは最初から諦めているし。

…無理でもないようだ。


「さて…じゃあ始めようか」


おそらく伊達眼鏡。黒縁のそれをかけて一気に秀才のイメージがアップする宇海零17歳。
思い返せばそうだ、こいつは天才だ。
カイジはほっと胸を撫で下ろした。安堵の息を吐き出して、学生3人に言う。


「皆頑張れっ…!」


心からの思い。
特にしげる。無断欠席と遅刻。提出物は出さない。ノートも取らない。授業に出ているときも話を聞いているのかもいまいちよく分からない。
そんな彼の成績が良い方だとはお世辞にも言えなくて、カイジは呆れ返っていたのだが。


「2学期からは心機一転っ!しげるもやれば出来るんだからよっ!」


頑張ろうぜ、な?と機嫌を損ねないようにへりくだってカイジは笑った。
その笑顔もへらへらとしていて少し気持ちが悪い。
けれどしげるは十分やる気になったようで。


「カイジさんがそう言うなら…」


ゆっくりと学校の鞄の中から零と涯と同じようにノートやらワークやらを取り出す。その量は2人以上にあった。
目を点にする3人。
零とカイジが何も言わないから、代表して涯が聞いた。


「しげる、その量、なに…」
「全教科のワークとか自由研究とかとか作文とか学校で出された宿題」
「にしても量が…」
「ああ、担任の教師が俺にだけ特別に与えたらしいよ」
「…っ…!」


カイジの心にその教師に殺意が芽生えた。
終わる見込みがますますねぇじゃねぇかっ…!
けれど、教師もしげるの成績が上がるようにと思ってのことだろう。だがこの半端ない量は鬼畜じゃないのか。


「とりあえず量の少ない宇海は終わったらしげるを手伝う方向で」
「はぁ!?なんでだよ涯くん!」
「すぐに終わるだろ、お前なら」
「…まぁね。やる時間がなかっただけだし」


思いがけない涯の言葉に零は照れながら返した。


「皆で協力したほうが早いだろ。俺も読書感想文だけだし終わったらしげるの宿題手伝う」
「涯ありがと」


しげるが涯ににこりと微笑んだ。
すると突然カイジが立ち上がり、台所に歩いていった。なにやらニコニコしている。3人に背を向けているからそれはカイジしか知らない。
零が聞く。


「カイジさんどうしたの?」
「ん、もうすぐ昼だし昼飯作ろうかと」
「あ、お構いなくっ…」
「気使わなくてもいいんだぞ涯。つってもソーメンなんだけど…」
「夏だしいいんじゃない」


しげると涯はうんうん、とうなずいた。
夏といえばソーメン。経費も時間も大してかからないこの料理は主婦にとって嬉しい一品だ。
けれどそれが好きではない者もいて。


「うわあ期待してたのにカイジさんの裏切り者っ!」
「悪かったな」
「でも暑いしソーメンでもいいか…」
「どっちだ」


じゃあとりあえずお昼ご飯が出来るまで頑張ろう、と鉛筆を走らせ始める3人。
途端に場は静まり返り、カイジの調理する音と時計の音、蝉の鳴き声だけが唯一の音だった。

たまにはこんな休日もいいだろう。

カイジはフフッとまた密かに笑った。夏がもうすぐ終わる。







宿
(もしかしてお前ら2人の本当の目的、昼飯なんじゃ…)(そっそんなことないよ!な!涯くん!)(俺は純粋にしげると宿題終わらせようと思って)(涯は優しいね)(裏切り者ぉっ!!)





(100915)

最終日に追い込みます。


 

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