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□僕の子を産んでくれ
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「子供って嫌いだな」
真っ先に欲しがると思ってた。
「……」
「どうしたの涯くん目丸くしちゃって」
「いや…意外だなと思って…」
「…まあ、涯くんとの子供なら欲しいって思うけどさ」
でも子供って何考えてるか分からないだろ。
そう言って宇海は母親の横で泣きじゃくる子供を見つめた。
それは子供だから仕方ないだろう?子供だからこそ大声で泣くし、笑うし、怒るんだ。それが他人に迷惑をかけているとも知らなくても、子供だから仕方ないことなんだよ。
そんなようなことを言えば、宇海は眉間にしわを寄せた。泣きじゃくる子供を鋭い目つきで睨みつけながら。
「子供だったら許されるの?」
早口で。
「知らないから他人を殴る」
低く唸るような。
「知らないから他人を傷つける」
くぐもった声で。
「知らなかったら何をしてもいいのか?」
いつのまにか子供は泣きやんでいた。
宇海はようやく睨むのをやめて視線を地面に落とす。
そして今度は呟くように小さく言った。
「人を殺しても?」
無知って言うのは恐ろしい。
知らなかったから劇薬を飲んだ。知らなかったから包丁で傷つけた。知らなかったから殺害した。
逆に考えたらそれは、知りたかったからじゃないのか。
劇薬を飲んだらどうなるのか知りたかった。包丁で傷つけたらどうなるのか知りたかった。殺害したら殺された者はどうなり、自分はどんな気分になるのか知りたかった。
「子供はずるい。人を殺しても法律に守られているし」
知らなかったから、愛してしまった。
「そう言っても無知だったからで片づけられるだろ?」
宇海はふふ、と笑った。光の宿っていない瞳で。
なんて声をかければいいのか分からなくて、俺はただ黙っていた。
だって俺は知っている。
劇薬は飲んじゃいけない。包丁で傷つけちゃいけない。殺害してはいけない、と。
宇海のことを愛してはいけない、とも。俺は知っているのだから。
「子供に戻りたい…」
宇海の切実な願いにも、やっぱり言葉をかけることは出来なかった。
俺はお前に何もしてやることは出来ないんだ。爪が食い込むほど拳を握っても、それに意味があるわけじゃない。ただむなしいだけだ。
遠くでさっきまで泣いていた子供の笑い声が聞こえた。
僕の子を産んでくれ
(でも涯くん、君との子なら愛せる気がするんだ)
それは不可能だけれど、
(100920)
バイトの最中、子供ってうるさいなあと再認識して。でも子供は嫌いじゃないです。
宇海さんは基本子供好きだと思うけど、嫌われ体質だと思う。涯くんは好きじゃないけど、好かれるタイプ。一方通行ですね!