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□ふたりぼっち
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「いやしかし…お前相変わらず凡夫だなぁ」
「ぐっ!ほ…本当にあのアカギなんだな…!?」


死後の世界。天国。そこは苦痛を与えない幸せな楽園。
…のはずなんだが、平山幸雄はなぜか精神的ダメージをこれでもかと言うほど受けていた。


「まだ信じられないのか?」
「だっだって…赤木しげるが死ぬなんて…俺には考えられない…!」
「今まさに死んだお前と麻雀打ってるじゃねぇか…ロン」
「がっ…!!」


また負けた。


「相変わらず弱ぇなぁ」
「うっうるさい!」


雲の上。なぜか卓があって、なぜか牌があって、なぜか何十年ぶりに死後の世界で再会した赤木しげると平山幸雄は麻雀を打っていた。
賭ける金はないからお互いにただ打つだけなのだが、負けると言う事実が平山幸雄にダメージを与えていた。


「またお前と麻雀するなんて思ってなかった…」
「ん、嬉しいだろ」


にかりと笑う赤木しげるの顔を見て、平山幸雄は少し驚いた。


「アカギ、お前変わったな」
「そうか?」
「なんか柔らかくなったと言うか…昔はそんな風に笑わなかったろ」
「んな昔のこと覚えてねーよ…お、ロン」
「ぎっ…ああ…」
「人間変わるものなんだよ!お前は全く変わってねーけどな、凡夫」
「っるさい…!」


赤木しげるに対しての怒りや憎しみではなく、平山幸雄は自分に対しての羞恥を覚えた。
アカギはこんなにも変化を遂げた。昔はとげがあって自分と少し似ているなんて思っていたのに、今はこんなにも明るく笑っている。
それに比べて自分はどうだ?死んでからも何も変化していない。生まれ変わろうと努力もしていない。ただ天から地を見下ろしているだけ。
避けてきたその言葉をこいつは簡単に言いやがった。
平山幸雄は牌を強く強く握りしめた。


「いっ…言っておくがなアカギ!俺が弱いんじゃない!お前が強すぎるんだ!」
「そりゃどうも」
「褒めてない!いや褒めてるが…、でも俺が言いたいのはうぬぼれるなってことだ!」
「うぬぼれんなだ?」
「現にお前がここにいるのも人生に負けたからだろう!」
「ああ…」


ふんっと鼻を鳴らして胸を張れば、赤木しげるは楽しそうに言う。


「本当はもっと生きていたかったんだけどなー」


その声とは裏腹に、苦しそうに笑った。


「死ぬのもちっとこわかったし、あいつらとももっと一緒にいたかったんだ」


赤木しげるの本音。それは人間ならば望む当たり前の欲望だった。
死にたくない。もっと生きたい。死を恐れるのが普通だ。
けれど赤木しげるなら…この男なら死を恐れることなどないと思っていた。
しかし赤木しげるはこわかったと言う。もっと生きたかったと言う。
ならばなぜ生きなかった!
驚愕した表情で平山幸雄は身を乗り出して赤木しげるに怒鳴った。


「お…お前ならもっと生きていられただろう!何も早まらなくてもよかったんだ!」
「まあな…でもいいかなって思ってよ」


お前もいたし。


「…は…?」
「さすがは凡夫、お前成仏せずにずっと俺の周りにいただろ」
「えっ」
「なんか霊感強かったみたいだ。お前毎日うだうだうだうだうるせーよ」
「うっ」
「だから言いたいことあんなら面と向かって言えや」


だから死んだ。お前のために。


「…馬鹿だ」
「ああ?」
「お前は馬鹿だ!」


サングラスの奥の瞳は少しだけ涙で濡れていた。
長かった過去のことを思い出す。


(まだ生きてやがって!俺ももっと生きていたかった!まだ死にたくなかった!)

(お前に追いつこうと変な爺さんと麻雀打って俺は死んだんだぞ!全部お前のせいだ!)

(俺はお前とまっすぐ闘いたかったんだ……!)


俺が死んだのは自業自得だ。勝手に上へ行こうとして勝手に死んだんだ。
そんな俺のためにこいつはまだ生きていられた人生を終わらしてきた。
なんで俺なんかのために…。

涙声で問いかける。なぜ?震えた声で問いかける。どうして?


「死ぬ時は潔く死ぬ、だから死んだ…」
「………」
「でも…そんなに後悔はしてねぇよ」
「………」
「…おい、俺と勝負すんだろ?」


またにかりと笑った。


「泣くな凡夫!」


平山幸雄は今までにないほどの涙を流した。赤木しげるはそれを見て笑った。
思う存分闘おう。時間はたくさん有り余っているのだ。









(ここで腕1本とか賭けても意味ねぇよな)(痛みとかないしな)(つまんねぇの…)




(100926)

あの人の人生はきっとずっと色褪せないまま。


 

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