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□さよなら二度と会わない人
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空は赤く染まりかかっていて、少し肌寒くなっていた。
右手で握ってる買い物袋を持ち直して、足を進める。すると突然右手が軽くなった。
何かと思えば宇海が買い物袋を持とうとしてた。立ち止まる。
「どうした」
「俺が持つよ!」
「大丈夫だよ…女じゃないんだし」
「じゃあ半分持たせて」
「…ん」
2人で買い物袋を持ってまた歩き出す。少しだけ軽くなった。
「………」
珍しく無言。いつもの宇海なら「涯くん涯くん!」って話しかけてくるくせに。調子の狂う奴だ。
俺が少しだけ困惑していると、いきなり宇海が立ち止まった。同じ買い物袋を持っている俺も必然的に立ち止まった。
何かと思って宇海を見れば、口を開いてただ前を見てた。若干驚いたような表情で。
何事かと俺も視線を向けてみる。そこには白髪の男が立っていた。
「しげる…?」
宇海がその名を口に出す。
その男は俺達のしげるのようだったが、全くの別人のようだった。
俺達の知るしげるはこんなに老けてない。俺達の知るしげるはスーツなんて着ていない。
疑問を抱いていると、男が笑った。
「悪ぃな、そうだけど…そうじゃねぇんだ」
「え?」
「しげるの友達か何かか?」
煙草の煙を吐きながら問う。
俺達は顔を見合わせてから、答えた。
「友達…です」
「そうかい、これからもあいつと仲良くしてやってくれや」
「…あの、あなたは」
しげるの何ですか?
買い物袋の紐を握り締めて、俺は訊いた。
男は答えずに俺達を見て、煙を吐いた。紫煙が空に舞い上がる。
太陽を背に男は言った。
「あいつの身内みてーなもんだよ」
「ああ…似てますもんね」
「はははっ」
男は一瞬だけ視線を逸らす。
そして煙草を吸ってから、一言。
「あいつをよろしく頼むな」
なんだか重たい一言だった。どういうことか分からなくて俺は首をかしげる。
すると宇海が訊いた。宇海はなぜか怒ってる様子だ。
「しげるをおいてどこにいくつもりですか」
「宇海?」
「俺は別にあいつの親でも何でもねぇしな…」
「でもあなたは…!」
何がなんだか分からない俺を差し置いて、2人は睨み合っていた。
おい宇海、目上の人に対して失礼じゃないのか。
空気を読んでそれは言わないでおいた。
宇海はこの男が誰なのかわかっているようだ。俺は“しげるの身内”ということ以外何もわからない。誰なんだろうか。
「悪ぃな…零」
男はしげると同じ笑みを見せた。初めて会ったとは思えない懐かしい感じ。
今度はにかっと笑って、俺の横をすり抜けた。
「涯も零もしげると仲良くやってくれよなー」
背中で語る。
振り向けば、もうそこに男はいなかった。
「…赤木しげる…」
宇海が小さく呟いた。
なぁ、訊いていいか?なんであの男は俺達の名前を知っていて、なんでお前はあの男の名前を知っているんだ?
言葉には出さないでおいた。知っても意味が無い。多分、あの男にはもう二度と会うことはないだろうから。
「………」
妙にしげるに会いたくなった。
さよなら二度と会わない人
(よし、今日はカイジさんの家でご飯を食べよう)(え…さすがにいきなりはダメだと思うぞ)(いいんだよほら行こう涯くん!)
(100926)
あなたの分まで生きていきます。