SS2

□1本につき5.5分
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煙草は駄目。煙草は人の心を狂わせるよ。絶対吸っちゃ駄目。
宇海の馬鹿野郎があそこまで駄目だと言うものだから、煙草がどんなものか気になったんだ。だからほんの好奇心でしげるにもらった煙草を1本だけを吸ってみた。
それはひどく不味かった。とても美味しいなど言えない代物だった。


「……えほっ…」
「どうして吸ったの?」
「別にいいだろ煙草くらい…」


喉の奥が痛い。肺が苦しい。
宇海は心の底から心配していながらも、心の底から俺に怒っていた。


「子供じゃないんだし宇海は俺の保護者じゃない…煙草吸うも吸わないも俺の勝手だろ?」
「涯くん!」


誰にでもある反抗心。反抗期。
親と言うものも家族と言うものも、物心ついた頃にはもう俺にはいなかった。だから、俺にとって1番近くて親しい存在である宇海に反抗するしかなかった。
俺には宇海しかいないから。
それがいけないことだとは分かっている。宇海は兄貴じゃないし親じゃないし家族じゃない。宇海は友達だ。
だけど俺だって人間なわけで、俺にも思春期がなくてはならない。ちょっとしたことで怒りたくなるし泣きたくなるし嬉しくなったりする。
だけど全部宇海なら許してくれるだろ?


「涯くんは死にたいのか?」


宇海は許してくれなかった。


「現代の煙草がもたらす恐怖を涯くんも知ってるだろ?学校でも教えられてる!」
「身体に悪いってことは知ってる…」
「それを知ってて吸ったのか?」


ふと顔を上げる。怖いくらいの無表情で、宇海は口を動かした。


「知ってる?煙草の煙には4000種類以上もの化学物質が含まれていて、そのうちの200種類以上は有害物質なんだよ」
「へぇ…?」
「ちなみに煙草の主な成分はニコチンとタール、そして一酸化炭素なんだけど…ニコチンには依存性や中毒性が含まれてるし、タールには発癌性物質や発癌促進物質、毒性物質が含まれてる。一酸化炭素には動脈硬化を促進させる作用があると言われてるんだ」
「あ、ああ…」
「1本吸うだけで寿命のうち5.5分が削られるとも言われてる」
「………」
「涯くんは自分も周りも殺そうとしてるんだよ」


そんな悲しそうな顔して悔しそうな声で言われても、俺にどうしろって言うんだ。
黙っていると、しばらくして宇海が両手を伸ばしてきた。迷うことなく俺の首筋へ。
本能的に宇海の両手を掴んで阻止した。絞殺される気がした。


「死にたいなら俺が殺してあげる」


目が据わってる。


「涯くん死にたいんだろ?」
「別にそういうわけじゃ」
「俺が君を殺してその後俺も死んであげる」
「ごめん」
「どうして謝るんだよ?」
「……ごめん」
「もういいよ涯くんのばかっ」


俺の手を振りほどいて宇海は俺に背を向けた。そして自分の膝を抱える。
ああ、いつものいじけた宇海だ。


「宇海」
「………」
「宇海さん」
「………」
「零」
「涯くんが名前を呼んだ!…あっ」


嬉しそうに振り向いた宇海は、すぐ恥ずかしそうに視線を逸らした。
俺より大人なはずなのに、普段は大人に見えない宇海がなんだか可笑しかった。
俺は姿勢を崩して胡坐を掻いた。


「宇海、夕飯食べてくんだろ?」


煙草なんて多分もう吸うこともないだろうさ。な、これも良い経験。
そうやって子供は大人になってくんだろ?

宇海は微笑んだ。

お前みたいな大人には絶対ならないぞ!





1本5.5分

(ってことはしげるやカイジさんはすごく命を削ってるってことか…?)






(110103)
煙草のくだりを書きたかった。煙草は好きじゃないですが、煙草のキスとかロマンチックで好きです。
 

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