SS2

□ループする
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その日の宇海はあまりにもいつもと同じすぎた。
勉強も運動も人間関係もすべてが完璧な宇海でも、恋人に別れを告げられたらさすがに動揺するものだと思っていた。そんなことはなかった。宇海はいつも通りだった。気持ちが悪いくらい、いつも通り俺の前にいた。
どうして?普通は落ち込むものじゃないのか?普通は愚痴をこぼすものじゃないのか?普通は、普通は、普通は…


「だって涯くん、俺にも非はあるんだ」
「えっ…」
「俺は結局彼女のことを心から愛してはいなかったし、浮気されても仕方ないだろ」


宇海は酷く落ち着いた声色で言った。


「好きだ付き合ってくれってしつこかったから付き合ったけど、俺はべつに彼女のこと好きじゃなかったし。“彼女”と言う立場を利用して俺の行動を制御されるのも鬱陶しかったし。だから俺は彼女を放置したんだ」
「………」
「それで俺以外の他の人を好きになったんだから、いいじゃないか。彼女はしあわせだろ?」


俺と言う人間の裏側を知れた彼女もそれで満足だろうし、しつこい女の子から自由になれた俺も満足。一石二鳥。いいこと尽くし。ほら、誰も悲しむことはないだろう?
何て言ったらいいのか分からなかった。
それはしあわせって言うのか?彼女にとって、お前にとって、それはしあわせって言えるのか?
上手く言葉に出来ない俺に向かって宇海はいつもと同じ笑顔を向けた。


「いいんだよ涯くん。何かが変わったわけじゃない。むしろいつもの日常に戻ったんだ。これでいいんだ」
「(でも、)」


だけど、それじゃあ誰も報われないじゃないか。何だかなあ…。
机の上に置かれいている宇海の携帯電話は、以前より鳴らなくなった。







(ああ、こいつはまた同じことを繰り返すんだろうなあ…)




(20110529)
好きの反対は嫌いじゃなくてどうでもいい。
宇海さんは恋愛に興味なさそう。



 

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