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□愛したのは排出物
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宇海が壊れてしまった。
「涯くんの子供が出来たんだ」
下腹を撫でまわして満足そうに笑う宇海。
俺は男。宇海も男。男同士で子供を作るなんて出来るわけがない。その様な行為を及んだこともない。
こいつは何を言っているんだろう…
無言で宇海を見ていたら、俺の視線を感じ取ったのか宇海は突然顔を上げる。血走った眼に驚いたが視線を外すことも出来ず、俺と宇海はしばらく見つめ合った。数秒間。するとまた突然、宇海は瞳孔をかっぴらいて口を開いた。
「なに…その眼…まるで俺を哀れむみたい…」
「は…?」
「涯くん信じてないの…?ここには涯くんと俺の2人の子供がいるんだ…!」
宇海は出張った腹を見せてきた。言われてみれば膨らんでいるかもしれない。だけどそれは単に腹いっぱい食べた後の膨張のように見える。
俺には宇海が子を孕んだとは思えなかった。思えるはずもない。普通の人間ならば有り得ないのだから。
「俺たちの子だよ」
それでも宇海は主張を変えなかった。
「ねえ涯くん…名前はどうしようか?」
「宇海……」
「男かな、女かな!どっちだろうなー」
「止めろって……」
「どちらにせよ俺頑張って産むからな!」
「宇海……!」
宇海を見ていられなかった。見ていたくなかった。
だけど目を逸らしたら、俺が目を逸らしたら、宇海が本当にどうにかなってしまうじゃないかと思えて仕方なくて。だから俺は何をするわけでもなく、ただただ壊れた宇海を見ていた。
「ふふ、ふふふっ」
譬えるならまるで母の微笑みのようだった。優しくてあたたかいそれは純粋に子を愛しているからこその笑み。
教えてくれよ、宇海。何がお前をそんな風にしてしまったんだ?どうしてそんな風になってしまったんだ?
その言葉は喉につっかえて結局出てくることはなかった。なぜならそう聞いても宇海は笑って言うだろうと容易くイメージ出来たから。
「涯くんと愛し合っている証拠だろ?」
なあ、宇海。腹が痛くないか?トイレに行きたくないか?頼むよ。トイレに行ってくれ。そして気づいてくれ。
そこに子供なんていないんだ。
落胆しても絶望しても俺がそばにいてやるから。大丈夫だから。だから宇海…現実を見てくれよ。
「(お前のことは、ちゃんと好きだから)」
好きだった宇海が壊れてしまった。
愛したのは排出物
(お前が愛してるのは人なんかじゃないんだぜ)
(110915)
書いてて笑えた。宇海さんのお腹にあるのはもちろんあれです。男同士で妊娠できるわけないでしょう!