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□問い1 aを求めよ
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迂闊だった。



「(…まさかこんなに間違えるとは…)」


今日の授業で返された数学の予習プリント。ばつが予想以上に多くて驚いた。
帰宅してからずっとプリントと睨めっこしてるが、何が間違いなのかも分からず。あれ、俺こんなに頭悪かったか?なんだかすごく敗北感を感じる。
まぁ何もしないよりはましだろう。テストも近いしテスト勉強を兼ねて、間違いを直すか…。

俺はミニテーブルの上にプリントを置いて、鞄の中から教科書やノート、筆記具を出した。



「…でも分かんないんだよな」



ぽそりと呟く。
直そうと言う気はあるが、何をどうすればいいんだ。

同年代のしげるに聞いてみるか?…いや、あいつは勉強なんてしないな。選択問題で点を稼いでるようなもんだし。
いつも良くしてくれてるカイジさんに聞いてみるか?…いや、あの人勉強出来そうには見えないな。切羽詰らないと出来ないだろ。
じゃあやっぱりあいつに聞いてみるか?…いや、でも1番頼りたくない奴だ。止めとこう。
…でも、1人じゃどうしようもないんだよな。

溜め息を吐く。



「宇海しかいないか…」
「呼んだっ?」



振り返るとそこに宇海がいた。



「な、おま…!」
「おかえり涯くん!水臭いじゃんか、勉強なら俺に聞けよ!」
「お前どこに隠れてたんだよっ!」
「え、押入れ」
「それ犯罪…!」



仁王立ちしていた宇海は「まあまあ細かいことは気にしない」と言いながら、俺の横に腰を落とした。
そしてプリントを手に取った。



「涯くんは一次関数が苦手なんだ?」
「ん、ああ…苦手だ」
「よし、じゃあ一次関数を中心に勉強しようか」
「………」
「それからケアレスミスもわりと多いし、完璧にしていこう」



的確に、話を進めていく宇海。その宇海を見て、俺は少しだけ宇海を遠く感じた。
普段の宇海は阿保丸出しだし、むかつくし、うざい奴だけど。勉強する宇海は違う。なんか、俺の知らない奴みたいだ。尊敬すると同時に、



「(ちょっとだけどきどきする)」
「涯くん?」



名前を呼ばれて、我に返る。動揺しながらも教科書をぱらぱらめくって勉強するところを開いた。シャープペンシルを手にとって、ノートに向かう。
宇海は教科書を見つめてから、ページの一点を指差す。



「じゃあこの問いからいこうか」
「ん、分かった」



どきどきと格闘しながらも、その問いを解こうとシャープペンシルを走らせようとする。
すると宇海が「あっ」と声を出し、にっこりと笑いながら言った。



「涯くん解けなかったら罰ゲームね!」
「え」



人差し指を立てる宇海。



「俺はね涯くん、解いて褒美を与えるより解けなくて罰を与えたほうが頭に入ると思うんだ」
「(まぁそういう考えもあるだろうな)」
「だからね涯くん、解けなかったら俺にちゅーすること!」
「……はっ!?」



黒い笑み。
こいつの悪い笑顔は本当に悪人に見えてしまう。



「さあ涯くんどんどん解いて?それでどんどん間違えろよ」
「なんでだよ、教えてくれるんじゃないのか!」
「間違えてから間違いを正したほうが合理的だろ?間違えた原因も分かって、より理解できる」
「だからって…!」
「追いやられたら誰だってやる気出るしな」
「…(間違えられない)」
「ヒントは教えてあげるからさ、」



いつでもギブアップしていいんだぜ?



言ってることは正しいんだろうけど、やってることが絶対間違ってる。
俺は冷や汗を掻きながら、頭をフル回転させた。



と、とりあえずまずは解かないと…!





問い1 aを求めよ
(っ…)(ギブアップ?ギブアップ?)(黙ってろ…!)





     * * *

プレッシャーに耐えながら急いで問題を解こうとする涯くんは可愛いと思います。急いで解く必要ないのに…!





 

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