SS

□my sweetie
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好きだと言えば、ありがとうと君は言った。
愛してると言えば、ごめんと君は小さく言った。

結局俺は友達以上恋人未満。


「涯くんなんで?どうして?俺のどこがダメ?」
「どこがって言われても…」
「俺は涯くんの全部が好きだよ!そりゃ中学二年生だしちょっと痛いところもあるけどさ、真っ裸で軍服着たり鏡の自分より早くパンチが出来るとか思ったり」
「お前が俺を好きだと言う意味が分からない。恥ずかしい過去を穿り返すなバカ宇海」


早口で言って、涯くんは再び雑誌に視線を戻した。
涯くんが俺を見ることは少ない。目が合ってもすぐに逸らされる。
その現実は“涯くんが俺を見ていない”という何よりの証拠。切なくなるなんてものじゃない。

泣きたくなる。

けど俺は泣かない。
なぜなら重たいだけだから。泣いてすがって偽りの愛を手に入れたところで俺の心が満たされるわけではない。俺が欲しいのはそんなのじゃない。

俺が欲しいのは涯くんの本当の愛…!


「よし、涯くんこうしよう!これから俺が涯くんの好きなとこBEST10を発表してく。そしたら涯くんも俺の気持ちを分かってくれるはずだ。というわけでまず10位!涯くんの」
「うるさい」
「………」


涯くんの周りをうろうろすれば「うざい」と言われ。
涯くんになにかを話しかければ「だまれ」と言われ。
涯くんをひたすら見つめてれば「見るな」と言われ。

俺はどうしたらいいんだよ!

部屋の隅に行って体操座り。何やら暗いオーラが漂い始めます。
だって俺別にМじゃないんだぜ!放置プレイとか(も…燃えるって言えば燃えるけど…)別にそこまで好きじゃないし!前もこんなことあったし!
大きく溜息を吐いた。


「…しょうがないな」
「えっ!?」


顔を上げて涯くんの方を見れば、涯くんは呆れ顔で雑誌を閉じた。そして珍しく俺の方を見て、


「勝負しよう」


ただ一言そう言った。


「勝負…?」
「そうだな、シンプルにじゃんけんで」
「ちょ、ちょちょちょ…勝負してどうするんだよ」
「俺が勝ったらお前は自分の家に帰れ」
「えー…俺が勝ったら?」
「……相手してやる」
「よっしゃあ!さっそくじゃんけんしよう!」


珍しく涯くんが俺を見てくれて、俺に話しかけてくれて、(勝負に勝ったらだけど)相手をしてくれると言うんだ。やらないわけがない!
そうと決まれば考えろ宇海零!頭の中で数式を並べ始める。

たとえば俺がグーを出すとしよう。そうしたら涯くんは何を出す?きっと涯くんのことだ。グーだろう!なぜかって…光の速さで拳を出す涯くんだもの。普通に考えればグーだろ?いやしかしそこで俺がパーを出すと考えてもしかして涯くんチョキを出すんじゃ…いや待てよく考えれば光の速さで拳を出す涯くんだけど、眼潰しする涯くんでもある。チョキを出す確率はグーと同じくらい高い!でもそう考えれば涯くんはパーを出すことはよっぽどのことが無い限りあり得ない。そう考えれば俺はチョキを出しても勝ち目はないと分かる。チョキ以外…グーかパーを出せばいいと言う事か。じゃあグーを出すとしよう、そしたらチョキには勝てるけどパーには勝てない。でも涯くんがパーを出すことはまず考えられない。そうすれば単純な話俺はとりあえずパーを出せばいいってことか。よし、じゃあまずはチョキを出そう。きっと涯くんは眼潰し作戦からくる。そうしたらチョキとチョキでもう1度勝負になる。次に涯くんはきっと拳作戦でくるはず。グーを出し、俺はパーを出そう。勝てる!勝てるはずだ…!



「…もういいか…?」


1人悶々と考えていると、涯くんが問いかけてきた。にっこり笑って「勝負しよう!」と返す。
俺と涯くんは立ち上がっじゃんけんする体制に構えた。


「行くぞ…!」
「うんっ…!」


2人とも大きく振りかぶって、


「さーいしょはっ」


パシーン!

…俺は考えた結果やはりチョキを出し、涯くんはパーを出した。結論から言えば俺は勝った。勝ったんだけれども。

ほっぺが痛いよものすごく!何で殴られてんの俺!

分かりやすく言えばびんたされた俺。俺はそのまま倒れこみ、涯くんは「俺の勝ち」と呟いてまた雑誌を読み始める。
叩かれた右頬を抑えながら涯くんに聞く。


「ちょ、涯く…俺の勝ちじゃ…」
「は?何言ってんだ俺の勝ちだろ」


お前倒れたじゃねぇか。

しれっと言われる。
その言葉に、笑顔のまま俺は涯くんに諭した。


「いや、あの、涯くん?俺ルール的には勝ったんだけど…」
「うるさい」
「………」


あーあ、理不尽にも程があるだろ。でも俺涯くんなら最後は許しちゃうんだよね。


「はあ…」


…いつになったら涯くんは俺を見てくれるんだ!
どうせ結局はまた初めに戻るんだし。だったらいい加減俺を見てくれてもいいんじゃないの?

ねぇ涯くん!いい加減こっちを向いて!



my sweetie
(俺の推理が当たったってことは、それだけ涯くんと以心伝心してるってことだよね?)(はぁ?)





(20100503)

sweetie…かわいい(物・人)
本当はmy sweet ladyって使いたかったけど、涯くん女の子じゃないってことでこっちを使いました。
涯くん可愛いもんね。間違ってないよね。





 

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