YUME

□毎週水曜日の彼女
1ページ/1ページ





静まり返った図書室の端で、私はぼそりと呟いた。


「宇海くんって変わってるよね」


図書室には私と宇海くんの2人きりなのだから別に小声で言う必要も無かったけれど、図書室では静かにしなければいけないと言う先入観が私にはあった。そのせいだろうが、不思議と吐き出した言葉は小さくて、宇海くんの耳に届くのも一苦労したようだった。
本を読んでいた宇海くんは「え?」と本から目を離した。大きな瞳と私の視線がぶつかる。


「この行為に何か意味あるの?」
「別にないけど…」
「だったらなおさら変わってるよね」


怪訝そうな表情で黙り込んだ宇海くん。天才には天才の考えがあるんだろうが、凡人の私には理解出来ない。
毎週水曜日の放課後を図書室で2人で過ごすこの意味が。


「だっていま俺と君は恋人だから」
「恋人なんかじゃないよ。宇海くんには彼女がいるでしょ」
「でも毎週水曜日の放課後は君が彼女だよ」
「なにそれ意味不明…」


宇海くんには可愛い彼女がいる、らしい。本人が認めてるから真実なんだろうが、誰も彼の彼女を見たことは無い。
宇海くん曰く、努力家で可愛い子だそうだ。よく家にお邪魔して夕飯を食べさせてもらったりしているらしい。けどそんな彼女は“しげる”と言う人とたびたび浮気してるらしい。お気の毒に。
何度言っても意味が無く宇海くん自身嫌気が差していたから自分も浮気を…と言う事で私が選ばれたわけだが。私が選ばれたのにも特別な理由なんて無いんだろうけど。たまたま冴えない私が宇海くんと出会ってしまっただけだし。


「別に水曜日の放課後何かするわけでもないし…」
「外に出たら彼女に見られるかもしれない」
「ただ本読んでるのに何かメリットはあるの?」
「一緒にいられる」
「……」
「水曜日の放課後だけ俺は君に恋をする」
「……」
「何か不満?」


不満。不満?不満…。
この現状が嫌ならば来なければいい話。
でもここにいるのは私が心のどこかで少しだけ宇海くんのことが気になっているからだ。
校内一の秀才はどんな人なのか。宇海零と言う人間はどんな人なのか。
どこかできになっているから、私はいまここにいる。
気になる原因である宇海くんはずっと本を読んでいて、相手もしてくれない。つまらない。構ってほしい。もっと話したい。
ああ、私は不満を抱いてるのか。やっと理解した。


「俺のこと好き?」
「好きじゃない」
「俺のこと気になる?」
「………気になる」


ふと左手に温もりを感じた。見てみれば私の左手に宇海くんの右手が重なっていた。
何がなんだか分からなくて宇海くんを見てみれば、宇海くんはフフッと笑った。


「君も変わってると思う」


自分でも気付かない内に私は宇海くんに惚れていたようだ。


「今は私と宇海くんは恋人同士なんだよね」
「そうだね」
「…そっか」


なんだか泣きそうになった。
今は恋人同士。水曜日の放課後だけは私が彼女。だけどそれ以外の時間は私はただの友人。
ああ、宇海くんの彼女が羨ましい。


「宇海くん私のこと好き?」
「うん」
「………」
「好き」


彼女の2番目に?


「やっぱり変わってるよね」


私も、君も。



毎週水曜日の彼女

(やっぱり所詮は2番目じゃないか!)

どうせなら1番になりたかったな。



(20101123)

拍手の「2番目の彼女」の続編的な。
爽やかをイメージして書いてみたよ。爽やかだけど言ってることはただのたらしだなこれ!


 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ