リボーン

□籠の鳥は唄を覚えず
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やけに空が高いと思った。
手を腕を伸ばして、伸ばして。
錆びたフェンスに指を絡ませて、更に伸ばして。
届かず空気だけを撫でる掌を引き戻されて、隣でフェンスにもたれている彼の頬へと触れた。
暖かな空よりも低く、けれど温かなぬくもり思わず笑みを浮かべると彼は 何笑ってるの、と相変わらずの低い、耳障りのよい声音を発する。
別に、と苦笑すれば そう、と突然興味を失ったかのように零して手を払う。
離れた手が暖かな、それでも幾分か冬気の残る空気に触れて。
掌を合わせれば ほら まるで神への祈りのよう。
信じてもいない祈りを呟くでもなく呼気を吐いて、彼の好きな、母国語ではない詞を紡ぐ。
確かこうだった、とうろ覚えな唄とも呼べないような歌。
それでも幾らか彼の気は引けたようで、音が違うよ、と指摘される。
…え、?あ、あぁごめん、日本語の歌詞って難しくて、
我ながら言い訳めいた言葉にくしゃりと顔を軽くしかめるように笑えば同じように彼もその顔を歪ませる。
それじゃあアイツの方がマシだよ、と呟いたと思えば隣から静かに響く声音。

低く、低く。
鼓膜を脳髄を直接撫でるような低音の旋律に思わず目を見開けど、彼は気にした風もなく。
その孤高な獣の如く光を放つ眼をゆるりと閉じて、柔らかに歌を紡いでいく。

異国語である筈の言葉は思ったよりもすんなりと余りにも耳に残って。
ぼう、と単調に唄うバーズが彼の指先に止まるのを惚けて見ていれば 帰るよ、といつの間にやら歌うのを止めた彼が獣のような悠然とした声で呼ぶ。
それがバーズなのか自分なのか判断を付きかねていると、戸口に向かって歩き出した彼が軽く振り向いて。
彼には珍しく再度その薄い唇を開いた。


何してるの、置いて行くよ。

紡がれだ言葉をようやく汲み取って、
あ、あぁ、今行くよ、とたたらを踏むかのような足取りで先を行く彼をぱたぱたと追い掛ける。
きっと行き先は彼の巣だろうけども、こうして呼ばれたからには入ってもいいと許しを貰えたようで。
けれどまるで自分も彼の傍を離れぬ鳥のように思えて。

鳥籠の鳥。

それでも構わないか、と相も変わらず不機嫌そうに眉根を寄せて足を止めて待っていてくれた彼に笑みを浮かべた。







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