NOVEL's

決断
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愛しくて
愛しくて


どうしようもないくらい
大好きな人いたら
誰だって
その人のすべてが
欲しいと思うものだろう



その身体も心も
すべて自分のものに…



でも


それは秘密―…



胸の奥に封じ込める想い…


****



「夏妃姉さん?」


「…―…―…」


「こんなソファーで
寝ていたら風邪引くわよ」


「……すぅ……」


「はぁ―…」


……。



(寝顔なんて…初めて見たわ)







"綺麗"


その言葉が正にこの人の
ためにあるように思わせる
その眠り主は今だ起きる様子がない。


「まったく、なんて無防備なのかしら」


透き通るような白い肌。
手入れの行き通った長く結われた髪。
抱きしめたら今にも壊れてしまいそうな華奢な身体。


いつもは、常に何かと戦っているような険しい表情しか見ないのに―…


(―こんな表情も出来るのね)

思わず微笑んでしまう程だった。


それはとても、安らいでるような表情とは言えないものの、それでも、いつもシワを寄せている眉も下がっていて、普段より柔らかな表情である。



「そんな顔されたら、襲いたくなるじゃない」

なんて、本気混じりの冗談なんか言ってみる。


余程疲れていたのであろう。

まぁ、原因は分かってきっといること。


だってそれは、"私"だから。


今日もまた、
彼女ときつくぶつかってしまった。


彼女にまったく罪はないのに。


彼女に初めて出会ったのは、
兄である蔵臼の婚約者として紹介された時のこと。
頬を赤らめ、まだ初々しさが残っていた少女は蔵臼の横に並んでいた。

最初、蔵臼に、「婚約者をお前に紹介したいんだと」言われたときは全くもって興味がなった。"あの蔵臼の嫁になるなんて"と同情すら感じた程である。

しかし彼女を見た瞬間、
そんな思いは吹き飛び
私は一目で惹かれていった。


(なのに、何故あの蔵臼なの…)


その後直ぐに、想いを掻き消すかのよう私は今の夫と結婚をした。


運命とは残酷なものである。


それは、この家に生まれてきたときから、山ほど思い知らされていたこと。


だけど、こればかりは
どうしようもない。


私は女で、彼女も女…。

何より既に既婚者でもある。



何故、もっと早く出会うことができなかったのだろう。

もし、私が男で…そしてこの右代宮家の次期当主であったなら、貴女はそうして、私の横に並び、頬を赤らめ笑いかけてくれていたのだろうか…


私はその時酷く運命を恨んだ。



そしてその頃からだった…

貴女に酷く当たるようになってしまったのは。



「…なつ…ひ…」


そう名前を呼び合い笑いかける日なんてきっとこない。呼び捨てなんて以っての外。



「―ごめんなさいね…」



だけど、どうすることもできなかった。


もし、貴女と馴れ合ってしまったら、私は貴女を壊してしまっていたかもしれない

現在より、最悪な想いをさせてしまったかもしれないから




こうする他にかなかったの。


悪いのは全部"私"


だから、もっと"私"を嫌いになって…

殺してしまうほど憎んで?


そしていつか貴女の手で―…。




(―こんな歪んだ私をどうか許して…)



そう、頬に落とした一つの口づけは、また新たな"決断"となる。
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