12/06の日記

01:37
鉢x♀雷
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「今までで一番ロマンチックだと思ったコトってなんだい?。」

放課後に時々立ち寄るファーストフード店。
ストロベリーシェイクとポテトのLとアップルパイが僕のお馴染みのメニューだ。
気分よくお腹を満たしていた僕に、三郎がそんなコトを聞いてきたもんだからアップルパイをかじり損じた。

「・・・・・・・何でそんなコト聞くの。」

「雷蔵が、どんなコトでロマンチックな気分に浸れるか気になった。」

「・・・・。」

ズゴゴゴ、、どう返答していいのだろう。
とりあえず僕はシェイクの手助けを借りて口を塞いだ。
目の前の三郎は、、とても真剣だ。どうしてこんな所でそんな質問をするのやら。
こいつは学年でトップを取るくらい頭がいいのに時々突拍子も無くおかしな所があるから大いに面倒くさい。

「・・・・ひょっとして無い?。」

「さあね、、。でも、それを知ってお前はどうしたいのさ。」

「雷蔵が私にときめいてくれるようにそれを実行しようじゃあないか。」

二カリと屈託無く笑うその姿は無邪気なもんだった。
冗談のように聞いてきて冗談じゃなく本当に三郎は口にした言葉を有言実行する奴だから下手なコトを言えやしない。

僕は益々シェイクやポテトで口を塞いだ。


「雷蔵、雷蔵、、。頼むよ教えてくれ。」


ああ、怖い。表情は愉快そうに笑っているのに僕を捉えるその瞳の光は真逆だ。まるで僕を脅迫しているかのようで恐ろしくなる。
どんなささいな内容であれ三郎は僕の事を何でも知りたがる。それが嬉しくもあり、恐怖にもなる。

それでも、やっぱり僕は三郎を愛しているのだ。

三郎のわかりやすくてわかりにくい、、簡単なようでこんがらがっている好意の証がそれなのだから。


「・・・・・別に、特別隠す事じゃないさ。こうやってお前と一緒にあったかいポテトを食べたりするような放課後デートが僕にとってはロマンチックなひと時さ。」

ほら。、、とひょろ長いポテトを摘んで三郎の口元へ持っていけば「嬉しい事を言ってくれるじゃないか。」とご機嫌そうに目を細め笑い、、ポテトにかじり付いた。
こうしてこの日の三郎の発作のような“ソレ”は落ち着いた。



・・・・僕はぼんやりと窓の外を眺める。三階席から観る外の景色は中途半端で少しだけイライラしてしまう。
三郎は「お代わりがいるだろう?」と僕の新しいシェイクを買いに二階下の混雑したレジ列へと並びに行った。戻ってくるのはきっと五分以上はかかるに違いない。

本当の事は言わなかった。

僕が今までで一番ロマンチックだと感じたのは、、随分昔に新聞で読んだ小さな記事だった。

それは中年の男が空き巣で摑まった、、そんな事件。

泥棒を繰り返してついに摑まったその男の犯行の理由は“愛人との生活を守りたかった”と。

妻がいて愛人もいて、それで盗みも働いて摑まって、、、、。世間の目には至極最低の男として映ったであろうその男の行為に僕は「なんてロマンチックなんだろう」と思わず呟いたのを今でも忘れない。

犯罪を働いてでも愛人を繋ぎ止めたいというやみくもなその情熱に僕は不謹慎かもしれないが感動してしまったのだ。

三郎には絶対に言えない。言ってはいけない。
三郎が勘違いをして僕の為に犯罪を行う事になってしまってはロマンチックどころじゃあない。


「雷蔵!おまたせ!!」


ようやく帰ってきた三郎に僕はまたポテトを食べさせてあげた。
冷めてパサパサしたポテトも「雷蔵が食べさせてくれるから美味しい!」と幸せそうに言う三郎が何だかとても愛しかった。




(鉢と♀雷)

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