02/22の日記

00:33
鉢→←♀雷
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「雷蔵、コレ。」

二月の頭、、放課後の帰り道で三郎から茶封筒を渡された。雷蔵はそれをただただ無言で受け取る。

「全部使い切らなくてもいいから、、余った分は雷蔵が好きに使ってくれて構わない。」

そう言って三郎は雷蔵に手を振り、目の前の自宅へと少しばかり足早に入ってしまった。
雷蔵はぼんやりとその様子を見送り、少しばかり足を重くして三郎の家の隣に建つ、自身の自宅へと入っていった。


―――三郎と雷蔵は生まれた時からもうかれこれ14年、、住む場所もお隣同士、、学校もクラスもずっと同じな幼馴染だ。


雷蔵は部屋に入り、ベッドに腰掛けると三郎から渡された茶封筒の封を開けた。
軽く糊付けされた口は簡単に開けることができ、中を覗けば“野口英世”が数枚納まっていた。


「・・・・去年よりまた一枚多い・・。」


雷蔵は小さくため息をついて、そのままベッドに身を沈めた。
このやり取りが始まったのは確か小学4年生の頃だったなぁ、、と毎年この季節になると回想にふけてしまう。

小学3年生時のバレンタインの翌日、、三郎は朝っぱらとてもとても不機嫌そうに雷蔵へと詰め寄った。

『・・・雷蔵、どうして昨日チョコをくれなかったんだ。』

雷蔵はたじろいだ。こんなに不機嫌な三郎は未だかつて見た事がなかったからだ。

『どうしてって・・。別に、もう今更だし・・・。』

『今更?!今更ってなんだ!!』

『そりゃあずっと幼稚園の頃からあげてきたけど、お前も去年から色んな女の子にチョコもらうようになったし・・・、、
僕の幼馴染の義務みたいになってるチョコはいらないかな・・って。』

そう言った雷蔵に、先程とは打って変わり落ち込んだ面持ちで『・・・私は雷蔵からのチョコが欲しかったんだ・・。』と三郎がポツリと言い放った。

その時のなんとも気まずい空気にもかかわらず、鈍感な雷蔵は『・・でも、僕お小遣いも全然残ってなかったから、どっちにしても三郎にチョコは上げられなかったよ。』なんて言ってしまった。


・・・・それから、その次のバレンタインデー前には三郎が雷蔵へと“三郎へのチョコレート代”を渡すようになったのだ。
最初は500円、次に千円、、その次は二千円・・・
毎年ごとに金額は増えていく。

雷蔵も最初は“やれやれ、、”とあきれつつも三郎の希望通りにバレンタインチョコを渡されたお金で買い、バレンタインの当日は誰よりも一番に三郎へと渡してきた。





――しかし、それも今は苦痛だ。


雷蔵が、三郎への恋心にようやっと気付いてしまった今となってはちゃんと自分から進んで彼にチョコレートを渡したい。

三郎に、、こんなお金を出してもらって“義務チョコ”をしたくはないのだ。

三郎の想いが雷蔵には判らない。
どうして三郎はわざわざチョコを買ってもらう為にこんなコトをするのか?


「(三郎は・・・、、僕のコトを好きなんだろうか?でも、三郎は僕に何も言わない・・・。僕は三郎の『特別』だと言う確証もないのにうぬぼれられないよ・・、、、)」


三郎の雷蔵に対する気持ちは“家族愛”なのではないかと雷蔵は考える。
勿論本当の家族ではないけど、、14年間も幼馴染をしてる自分たちはまるで双子のきょうだいのような感覚でいて、、
三郎は雷蔵が自分へと構ってくれないのが嫌でちょっとおかしな方向に駄々をこねてる“弟”か“兄”の心境ではないかと思い悩む。

だとしたら雷蔵は一生、三郎の“姉”か“妹”でしかなれないのだ。


三郎に告白する勇気はまだ今は持てない。
せめて、、来年のバレンタインデーだ。

中学を卒業する前ならばいっそ振られても、避けられてしまうようになっても高校へ行って忘れるように努力できるはずだ。

そう、雷蔵の第一志望の高校は女子高だから、三郎とはもう同じ学校でいられるのも中学生までしかない。


「・・・・三郎・・。」


想い人の名を口にして、ふいに涙が零れた。


「(こんなに切なくて、ほろ苦いバレンタインデーはもう、終わりにしたいよ・・・。)」


お札の入った封筒を握り締めながら雷蔵は1円残らず全て三郎へのチョコレート代にする事だけを考えた。

今はこれが雷蔵にできるせめてもの三郎への想いの伝え方なのだった。




(幼馴染な鉢→←♀雷)
どんなにかっこ悪くても馬鹿でもいいから雷蔵からチョコをもらいたい三郎。
心配せずとも三郎に「絶対に嫁にもらう!!」と決心されている愛されてるにょ雷たん

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