04/02の日記

01:19
鉢×♀雷
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カラン、、と心地よいベルの音を鳴らして、放課後の定番の寄り道場所であるファミレスのドアをくぐった。
すぐに店員さんに席を案内されそうになったけれど、

「先に連れが入ってるので・・、、」

と断り店内を見回して目当ての人物を探した。

「―――いた。」

やはり馴染みの席である窓際の角の席にあいつはいた。背をこちらに向けてても判る栗色の髪は間違いなく、、三郎だ。
そっと近づけば何やら数枚の用紙を手に、真剣に読み込んでいた。


「三郎、待った?」

「雷蔵!!いいや、君を待つ時間も楽しいものさ。」


待ったのか待ってないのか答えになっていないけど、三郎の目の前にあるアイスコーヒーがまだたっぷりと残っていたから、
「(そんなに待ってないかな?)」という事にしておいた。

三郎の目の前の席へと腰を降ろした僕は、すぐにお冷を持ってきてくれた店員さんにレモンシャーベットを頼んだ。


「・・ね、三郎。それなぁに?楽譜みたいだけど。」

「みたいじゃなくて、楽譜。今度、合唱部に頼まれて県のコンクールで伴奏する事になった。」

「三郎、そういうの面倒だって前に言ってなかった?」


三郎のピアノの腕はすごい。
お父さんがプロのピアニストでお母さんはヴァイオリニスト、、、
三郎の上のお兄さん達もそれぞれ得意な楽器を受け継いでいるけど三郎のピアノ伴奏は兄弟一、、プロであるお父さんにも御墨付を頂いているくらいだ。

けれど、気まぐれな三郎はどんなに頭を下げて頼まれようとも“気が乗らない”とその腕前を披露する事は無いのだ。
しかもその“気が乗る”のも一年に一回か二回程しか現われないというのに・・・・。


「――最初は断るつもりでいたさ。でも、この曲なら弾いてやろうと思ってね。」


ニタリ、、と眼を細めて笑う三郎に嫌な予感がした。
こんな表情を浮かべる時の三郎の思考は眉を顰めるような事しかありえない。

―――ああ、聞かなきゃ良かった。


「『混声合唱とピアノのための「はだか」から「きみ」』」


そう言って手渡された楽譜に眼を通し、僕はこめかみに痛みを覚えた。

・・・・・三郎の好みそうな詩だ。


「ほら、ここが良いだろう?

『きみはぼくのとなりでねむっている

ねむってるのではなくてしんでるのだったら

どんなにうれしいだろう』って。

・・・ああ、この想いの深さと言ったら・・・・!!」

そう言って、ますますニタニタと笑みを深くし、、詩をブツブツ口にし始めた。


僕はそんな三郎を少しだけ恐れ、楽譜へと視線をそらした。
・・・・・確かに、これはちょっと危うい詩だなぁ、、と思う。
「きみ」に一途な「ぼく」の深い愛情を詩に書いているのだろうけど目の前の三郎を見てみれば判る。

こいつは、『ぼく』と『きみ』を自分と僕とに置き換えて楽しんでいるのだ。


―――ぞっとする。僕は三郎のこういう所が苦手だ。


「・・・・コンクールっていつ?」

「ん?ああ・・、確か再来月の最期の土曜だったな・・、雷蔵、観に来てくれる?」

「再来月の最期の土曜日ね・・・」


ごそごそと手帳を取り出して、何か予定は入っていたかな、、と演技する。
再来月の最終土曜日まで約二ヶ月も、こんな気味悪い三郎を相手にするのは怖い。


だったら、もう元を断つしかない。


予定なんて書き込まれてない真っ白な手帳から顔を上げて、三郎へとニッコリと笑みを返す。


「ーーーーうん、この日は空いてる。」

「そうか!!じゃあ雷蔵、私の伴奏を聴きに来てくれるかい?君の事を想って鍵盤を弾くから・・!!」

「うん、楽しみだなぁ・・・。でも、ちょっと残念かも。」

「うん?」

「この日って僕の両親泊まりで出かけちゃうんだ。
だから、本当は・・土曜日、三郎とデートできたらなぁって・・・。」

「え??デートならコンクールの翌日の日曜日にでも・・・」

「―――馬鹿、。家に帰っても誰もいないんだから・・・・。そのまま・・・ね、?」

「・・・っつ!!!!」


ススス・・、、、と腕をのばして、テーブルに投げ出されたままの三郎の手の平におずおずと指を絡めた。
そうして、恥かしげに頬を染めて見せれば・・・・・、、、





――翌日。また同じように僕はちょっと遅れてファミレスに到着した。
昨日と全く同じ席にいた三郎は、昨日持っていた楽譜ではなく、、レジャー雑誌と・・・・周辺のホテル情報誌を交互に調べていた。


「・・・・三郎、お待たせ。もう、何処に行くか探してるの?」

「ああ、雷蔵!!こういうのは早いに越した事が無いからな。」

「そうだねぇ、楽しみだなぁ。」

「う、うんうんっ!!た、楽しみだ・・っ!!」


昨日と変わって、赤い顔でヘラヘラとして笑う三郎に心から安堵する。
昨日の帰り、コンビニのゴミ箱に投げ込まれたあの楽譜は、今頃はもう燃やされているのだろうか?

僕は心の中で“ごめんね”と呟いた。
きっと、聴いてみれば美しい調べだったに違いないのに。

けれど今は弔った楽譜に感傷しっぱなしの訳にもいかない。


「・・・・・・アリバイ、どうしよう・・?」


再来月の最終土曜日に両親に出掛けの用事はさらっさら無い、、。
ならば、両親の方に何か自分が家を空ける用事を造っておかねばならないのだ。






昨日と同じように頼んだレモンシャーベットは、いつの間にかすっかり溶けてしまってた。




(鉢x♀雷)
(・w・)こんな話に入れ込んだけど、本当にこの合唱曲はすんばらしーです!!!!数年前にNHKの合唱コンクール大会で聞いて鳥肌立つくらいに心に響きました。ちなみに三郎と雷たんは別の高校に通ってる設定です。二人の高校の中間地にこのファミレスがあるんだ。

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