中編色々
□なみだのうみでネコはよりそう
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夕日が沈みかけ、夕闇が迫る頃でした。
彼がそっと私から手を離し、立ち上がります。
彼の足もとから上を見上げると、夕闇に薄紫にそまったグレーの瞳と目が合って、なんて綺麗なんだろうと思わず見惚れていると、口元に微笑みを浮かべて言いました。
「もうお帰り。君の主人が、探しているかもしれないよ?」
どうやら彼は、私を誰かのペットなのだと思っているようです。
私は立ち上がり、少し距離を置いてまたそこへ座りました。
「僕も帰るよ」
そう言って、城の方へ歩き始めます。
けれど数歩歩いて、此方を一度振り返るのです。
「またね」
その言葉をふわりと柔らかな笑顔で言われて、私はただただ胸に咲き乱れる花々に戸惑いを覚えるばかりでした。
やがて、彼の姿が見えなくなった頃、私は元の姿に戻ります。
初めて知った、彼の温もりを思い出しては胸の中がほかほかと温かくなるのです。
それは今日の晩御飯はなにかしら?という期待に満ちた時のドキドキのようであったり、冬の暖炉前で、カップいっぱいのココアを飲むときのふわふわの気持ちのようでもあったり、だけど全然違うもののようであったり……。
普段あまり使わない頭を使ってみたら、オーバーヒートしそうになって。
だから私は考えるのをやめて、城へと走った。
「今日の晩御飯はなにかなー?」
それは、私がまだ貴方に夢中になる前のおはなし。
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