中編色々
□なみだのうみでネコはとまどう
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しばらくして解放された私は、未だ残るレギュラスの温もりに、くらくらしつつその隣で丸くなる。
「“ブラック家なのに”“シリウスの弟”“シリウスとは似ても似つかない”……周りなんてどうでもいいはずなのに、僕の心を抉っていくんです。ブラック家なのに優秀でないと。いつもいつも兄と比較されてきた。僕は僕なのに……」
彼はきっと私に言っているのではなくて、溜まっていく心の淀みを吐きだしていたのかもしれない。
「僕はいつもシリウスのオマケ。誰も彼も“シリウス、シリウス”だ。そんなに僕を嫌い?そんなに僕が……あんなやつ居なければ……良かったのに……」
夕闇が優しく帳を下ろしても、レギュラスはそこを動かなかった。
泣いているのかどうかは解らない。
だけど貴方はひとりなんかじゃないよって、伝えたかった。
そこに、居る事で―――。
「イライラするのは、どうしてかなんて解ってるんだ。兄さんがどんなに才能をもっているかなんて、僕が一番わかってる……。いつの間にか、僕を置いて行ってしまった。遠くに行ってしまった……。兄さんなんか嫌いだよ……嫌い……」
(本当は、大好きな癖に、素直になれないんだね)
「……嫌いになれたら、こんなに苦しくないのに。でも、兄さんはスリザリンや家が嫌いだから、慣れ合えない。どんなに僕が側に居たいと思っても……どうして、僕はひとりなんだろう……」
彼の兄は色々な意味で有名だった。
実際のシリウス・ブラックを知っているわけではないし、私はひとりっこだったから、レギュラスの想いを測るのは難しくて。
だけど、ひとつだけ言えるのは『ひとりなんかじゃないよ』ただ、それだけだった。
(ここにいるから、私が。)
のぼり始めの大きな三日月が優しく私たちを照らしだした。
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