中編色々

□なみだのうみでネコはささやく
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「おや?誰かの忘れ物……」

「ん?どうしたの?マリー」

「ミッション発生のようだよ。はいこれ」


マリーは面白いものを発見したとでも言わんばかりの表情で、私へそれを手渡した。
それは何の変哲もない教科書。
先程までやっていた授業のものだ。

くるりと裏返してみれば、そこには金のインクと繊細な文字でこう書かれていた。


“Regulus Arcturus Black”


「へぇ……レギュラスくんの忘れも……え、えええぇぇぇぇ?!ま、まさかこれを私に届けろっていう……?」

「ああ、今日の課題はいくら優秀な彼でも、教科書ナシじゃ難しいだろうなぁ。誰かが届けてあげないといけないけど、私は忙しいからなぁ〜」


マリーはワザとらしくそう言って溜め息をついた。
そうして彼女は「あー、忙しい、忙しい」と呟きながら、早々に教室を出ていくのだった。
後に残された私はひとり、ぽつんと取り残される。手の中にあるそれを見つめれば、途端に頬が熱を持つ。
確かにこれは、チャンスだと思うけれど……。
どうやって話しかければいいのかとか、何を言ったらいいのかとか、ただ手渡すだけでいいのかとか、色々考えてしまう。


「はぁー……。どうしよ、これ……」


呟いても、誰もいない教室に空しく響くだけ。
私はレギュラスくんの教科書を胸に抱き、教室を後にした。


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