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□さよなら。
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病みキョン×酷い古泉








「・・・・こいずみ」
ぐったりとした彼が、ベッドの上で横たわったまま僕の名を呼んだ。
面倒でかなわない。
「黙ってください。貴方の声で呼ばれるだけで不愉快です」
「・・・・・」
寝たままで視線を合わせようとしない彼。何だかその態度が不愉快で、僕は彼に酷い言葉を浴びせる。
「早く服を着て、出ていってくれませんか?邪魔なのですが」
ぎゅ、と彼の手がシーツを握るのが見えた。そんな反応が楽しくて、僕は彼をベッドの上から落とした。
「・・・・・」
とさ、と彼は床に落ちた。
俯く彼。文句も、罵謄の言葉さえも出てこないらしく、その俯いた姿を面白く思って、僕は見下ろした。
そして、床に散らばる彼の服を投げつける。そんな事をされても、彼は何も言わない。
僕は、さすがに面白くなくなってきて、彼を立たせようとした。
しかし、彼はすくっといきなり立ち上がった。
「・・・帰るよ」
そして、悲しそうに笑った。
彼はそれだけ言うと、ゆっくりと僕の部屋の扉を開けた。
「・・・・じゃあな」




ばたん、と。
彼はこの部屋から出て行った。
僕は何も言わずにその背中をずっと見ていた。扉が閉まり切るまで。
ずっと。
ずっと。
また明日、なんていう当たり前の言葉はお互い口にせずに。
「・・・さよなら」
閉まり切った扉に、僕はそれだけ言って目を閉じた。





愛を語る。
そんなの、僕には無理だ。
愛を騙る。
それが僕らにはふさわしい。



そんな事を、僕は一人で考えながら、まだ彼の背中を見ていたかった、なんていうくだらない事を思って、そんな想いに蓋をした。
虫唾が走る。
彼なんてどうでもいい。
どうでもいい。
こんな事を考える事さえも、僕にとっては無駄な事だ。
くだらない。



ケータイの無機質な着信音が鳴り響く。
きっと、また閉鎖空間が発生したのだろう。
ああ、くだらない。
彼がまた神に逆らったからだ。
どうして彼が世界の鍵なんだろうか。怒りで目の前が真っ赤に染まる。
明日彼に会ったら言おう。
明日彼に会ったら言おう。







「貴方は醜い」
そして僕も醜い。



「貴方は汚い」
そして僕も汚い。



「貴方なんて




 存在が迷惑なんだ」





ああ、こんな想いに蓋をして。
嘘なんて付くのは簡単だろう。




だから、もう・・・・何もいらない。
そうして、僕は床を酷く蹴った。


その音は、彼の悲鳴に似ていた気がした。




ああ、くだらない。

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