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□花廓
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陰子キョン×客古泉








見上げると空があった。
青く、突き抜けるような空が。
それを見ていると、自分も自由になった様な気分になるんだ。
ああ、そんなのは嘘だ。
「・・・・自由になりたい」
俺はこの願いを捨てることはできないというのに。
思考を奪って。
二度とこんなことを考えない様に。
手足を奪って。
二度と逃げようなんて思わない様に。
逃げられない俺は、もう逃げたいなんて空しい事は思いたくないんだ。
叶わない願い。
いつか叶う、なんて信じて。






     ◇◇◇





「古泉様、どうかなさいましたか?」
「・・・あ、いえ」
何でもありませんよ。
そう言いながら僕は微笑んだ。
だが、それは繕っただけだ。
本当は、見上げた窓を見て茫然としていた。
見上げた先。
そこには窓があった。
青年が窓から顏を覗かせているのが見えた。
泣いている彼。
その表情に、目を奪われたのだ。



ここは、花廓。
親の借金のカタに連れて来られたり、両親を亡くして捨てられた少年たちが陰子として売られる場所だ。
女が売られていたら、遊郭。
売られているのが少年だという事だけが違うだけで、ここでは少年たちが身を売って働いている。
「古泉様、どの店に致しますか?」
「・・・・そうですね」
僕に付き添っている男が、僕に問うてくる。
ふと目をやる。
やはり、僕の目には先程の青年しか映らない様だ。
「あの店にします」
「承知いたしました」
にっこりと笑み、会釈した男が店へ向かうのを見送り、僕は路地裏へと向かう。
こんな黒ずくめの格好では目立ってしまうからと言い、先程の男が用意した着物がある。
着替えている間、僕は先程の青年の事ばかり考えていた。
最初はぼんやりと物思いにふけっているのかと思っていたが、急に涙を流し始めた。
理由を聞きたい。
こんなにも他人に関心を持ったのは初めてだ。
この上なく、彼に逢いたかった。
「行きましょう、古泉様」
「ああ、様はもう要らないでしょう?」
「そうでしたね、古泉さん」
そして、僕は花廓へと足を運んだ。





     ◇◇◇


「キョン、お客様だよ」
「・・・・・ああ、分かった」
「言葉使いには気をつけなさいよ」
「はいはい」
どうやらまた客が来たらしい。
先程の事を想えば、他の客などまだ良い。
そう思いながら、俺は腰を上げた。



「こんにちは」
「・・・・・」
「どうかしましたか?」
「いえ・・・・今日の主様は、何だか変わり者だと思っただけです」
「そうですか」
くす、と。
微笑んだ主様は、俺に笑みかけた。
こんな主様初めてだ。
まず、雰囲気が違う。
普通の着物を着ているのに、上品だ。
何だか、また泣きそうな気がして。
俺は唇を噛み締めた。
「・・・」
「どうかしましたか?」
「・・・・何でも、ないです」
「こっちに来てください」
手招きをされ、俺は主様の傍へ行く。
すると、主様は俺の両頬を手の平で包んだ。
「・・・な」
「話してくださいませんか?」
「・・な、何をですか?」
「貴方が、泣いていた理由を」
「・・・・・っ!」
びくりと俺は震えて首を横に振った。
話したくない。
話す必要なんてない。
「・・・・い、嫌です」
「どうしてですか?」
「ぬ、主様には・・・関わりのないことです。そんな事より、私には手を出さないのですか?」
「・・・そうですね」
納得してくれた様だ。
そう俺が安堵した瞬間に、主様は俺の身体を反転させて膝に乗せた。
「・・・・っ、な」
「では、話してくださるまで楽しむ事にします」
「・・・・っ、」
ゆっくりと、主様の手が俺の身体を這う。
鎖骨に触れ、下腹部を撫でる主様の手は決定的な刺激は与えてこない。
だが、それが逆にもどかしい。
「・・・っ、ん」
「あれ?どうかしましたか?まだ何もしていませんよね。触っただけで・・・」
「・・・っ、あ」
「こんなになっているのですか?」
俺の着衣を乱さないままに、俺の興奮している部分だけを俺の目に晒した。
みっともない自分の姿に唇を噛み締める。
「話してくださいますか?でないと、このままずっと触っていますよ?」
「・・・っ、ふぁ、くっ」
「感じやすいのですね」
ゆるゆると着物越しに触られ、俺はびくびくと震える。
どうしよう。
話したくはない。
でも、もう我慢できない。
「・・・っ、話しますっ、から」
「良い子ですね。では・・・」
「・・・・っ、や、っ、ぁ!」
俺は、主様に少ししごかれただけで足を突っ張らせて果てた。
ぼんやりとした視界と、早い心拍数。
こんなにも。
こんなにも自分の意志を尊重されたのは初めてだ。
主様が、俺の頭を撫でてくる。
その感覚が、その感触が俺に安堵感を与えてくる。
「・・・・・・」
「さあ、話してください」
「・・・・はい・・・・」
「ゆっくりで良いですよ」
その言葉に、不意に涙しそうになりながら、俺は目を閉じたのだった。

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