ma

□僕の決して悪くない憂鬱
1ページ/25ページ

純・古キョン
原作沿い(消失含む
 







衝撃。
そう呼べる、音波の様な衝動が僕の身体を突き抜けた。






「・・・・・、」






あまりの衝撃に。
衝動に、微笑んでいる事さえ儘ならない。
そんな痛みに僕は、少しだけ躊躇う様に後退する。
音もしない僕の動きに、僕は自身を嘲笑う様に。
微笑んだ、などと言えば嘘になるのだろうか。
僕は、まるで当たり前の様に微笑む事に失敗していた。





「・・・・・・・やはり、これは」





軽い破裂音と共に、赤い球体は消えた。
その瞬間に。
僕の目の前に広がっていた筈の悪夢は、跡形も無く消え去った。
その後に残ったのは、僕を見上げる残骸だけ。
自分の計画通りだ。
それでも、何故今僕はこんなにも虚しさを感じている?
確かに、そうだ。
だが、それではこの感情は幻だとでも言うのだろうか。
否。
絶対に、そんな可能性は、確率は零。
僕を惑わす存在は、否定してはならない。
だが、それを言えばこの感情を肯定する事になってしまうだろう。
そして、僕は。
『機関』を意識した上でその存在への感情を認めてしまう事にもなるのだから。
しかし、と。
こんな事を考えたとしても、無駄である事を僕はもう重々承知していた。
出会った瞬間から。
その時空を意のままに捻じ曲げる存在が居る事を理解していたとしても。






それでもこの想いも、感情も、消えなかったのだから。







「僕としては悲しいですね。キョンくん」







何とも言えない敗北感。
それは、僕が彼に対して今抱いている感情。
それは彼に対して消すことなど出来ず。
何にも代えられない想いを感じてしまっている為だろう。
そして、これは憎悪に等しい。
彼を当たり前の様に手に入れた彼女。
彼を当たり前の様に手にした彼女に対する。
そして、その小さな確率の中で成り立っているに関わらず。
存在する運命的宿命に対して感じる、僕の感情。







 彼女に、彼は渡さない。







これは小さな反抗心だろう。
いつでも、彼女に対して何かを譲ってきた僕なりの。
平和な生活も。
高校生という短い青春も。
いつでも彼女が僕から奪ってきたのだから。
ひとつくらい―――厭。







「彼だけは、渡さない=Aでしょうか」








そうして、僕はその画面を見つめた。
ほの暗い、パソコンの液晶を。


彼が、
彼女の暴走を止める為に―――、、、



そして、やっと僕は笑みを浮かべられた。 これでまた彼に笑いかけられる、などと思った。
吐き捨てる程、気色の悪い感情だと思った。















     ◇◇◇






如何してこう。
女子はイベント事が好きなのだろうかと。
ふと考えてみたが、そんな事は全く無駄だった。





一般的な女子として一纏めにしてしまえば簡単だが。
如何考えてみても涼宮ハルヒは一般的な女子とは懸け離れた存在だという事に気付いたからだ。
そう言うと、今までそうではなかった様にも思えるが、あいつの異常性は今までも同様に、一言では言い表せないほど壮大なものだ。
そして、今までや現在よりも更に、これからも続いていく事が肯定された様なあいつの性格や、挙動を見ていると、全ての責任から後始末までを背負わされている俺としては、自分が惨めになってしまう程だ。



「・・・・はあ」
 


そして、その役割はこれからも背負わされる事になるのだろう。
それを思うと、やはり俺が不憫で敵わない。
横を見てみると、俺の愛しの先輩、朝比奈みくるさんがせっせと部員分の茶を淹れている。
懸命な顔や、小柄な体躯も可愛らしくて、如何しても頬が緩んでしまう。
すると、一寸の幸せに浸っていた俺の前に、嬉々とした笑みを浮かべたハルヒが部室の扉を開けた。
いや、体当たりして扉が打ち飛んだくらいの勢いだった。





「―――皆、進んでるかしら?」






はきはきとした、何処となく理知的な美女。
嬉々として輝く瞳も、勢いに舞う髪も、知的な笑みも、全てが完璧な女。
だが、地球上のものとは思えない異常な思考を兼ね備えている異常女。
それが、俺のクラスメイトであり、SOS団(『世界をおおいに盛り上げるための涼宮ハルヒの団』)の団長。
その他に、映画監督や編集長など、色々な事を思いついては俺たちを台風の様に巻き込んでいく。
それがこいつ、黙っていれば可愛いのに的美女、涼宮ハルヒだ。






「どう?みくるちゃん。キョンたちは、サボらずにちゃんと準備してた?」
「・・・ぁ、あの・・・大丈夫す、・・・・はい・・・」
「そう?じゃあ、放課後は食べるものを買わなきゃね!有希も来るでしょ?」
「・・・・・」






俺は、静かに俯く様にして頷く長門に目をやる。
その表情は、やはりいつもの様に何の感情も浮かべない、無感情そのものだ。
だが、最近はだんだんと長門の浮かべる表情にも気付ける様になった、と俺も自重している。
俯いた視線の先にはハードカバーの本。やはり、元(?)文芸部だからか、読書はお気に入りらしい。
俺の聞くところでは、「別に」という返答しか貰っていないが、見るところでは目をやれば長門はいつも読書をしている。
暗いのではなく、ただ本が好きという雰囲気なのだが。
眼鏡の奥にあるのは、ビー玉の様な眸。
やはり、細く小さな体躯もあるのか、長門は裏では人気があるらしい。
裏ファンたちは、時々ハルヒ主催のイベントで姿を見せたりすれば、はっきりと有り得ない興奮度を見せているのを見かける。
俺から見れば、はっきり、朝比奈さんのファンの様に活動でもすれば良いと思うのだが、それをハルヒに聞いてみれば、



『そうやって、隠れて見てる事に燃(萌)えるんでしょ?』




との事だった。俺にはさっぱり分からん。
それよりも、本を読んでいる長門は、サボっている部類に入らないのだろうか。
「おい」
「・・・・・・」
「長門。その本、面白いのか?」
「別に」
「そうか。で?お前ら、放課後は具体的に、何を買うんだ?」
「知らない」
 俺は、不意に長門と会話しながら、昨日の放課後の事を思い出していた。
 ・・・・・・・・
 ・・・・
 ・・・








「―――そうよ!誕生会をしましょう!」







その日も、ハルヒは突然そんな事を言った。
如何考えても今思いついたとしか思えない、そんな言い方だった。
しかし、『誕生会』というのだから、誰か誕生日を迎えるのだろうか。
俺の誕生日はまだまだだったし、急に言い出すくらいだからハルヒ自身の誕生会でもないだろうと思う。
ハルヒの誕生日会をしようと言うものならば、こんなにもあっさりとした即席の誕生日会などでは済まされないに決まっているじゃないか。
まさか、未知の生物に対する交信や呪い絡みの儀式の様なものか。
いや、まさか宇宙人や未来人とか超能力者に対しての、信じきった奴だけが出来る信仰心を表す為の誕生会か?それだったら、お前以外の部員は苦笑しか出来ねえぞ。
そして、俺がそんな事を思っていると、





「じゃあ誰か誕生日の人ー?」






なんて言い出しやがった。
なんつー無計画な奴だよ。
朝比奈さんは、ハルヒに真っ直ぐな指を向けられ、慌てて首を左右に振り、俺も「俺も違う」と言って首を振った。
そして、長門も本から視線を離す事なく、
「知らない」
そう言った。
「違う」じゃねえのかよと思ったが、ハルヒはそれには触れずにさっさと指を移動させていった。
そして俺が、朝比奈さん、これも禁止事項だったのだろうかなどと思っていると、






「ああ、それでしたら僕は今月誕生日を迎えるのですが」






ハンサムスマイル0円で、古泉が「僕で宜しければ」と言いながら立候補しやがった。
俺は、どうせ嘘だろうという視線を送る。
一見ただのハンサムにしか見えない、この男、古泉 一樹はハルヒの影響により超能力者となり、『機関』という組織に所属している。他の、朝比奈さんは未来人で、長門は、平たく言えば宇宙だ。こういうところは、ハルヒの感は働かないらしい。毎日の様に、宇宙人未来人超能力者の類を探しているというのに、まさか探すのに協力している奴らの殆ど(俺以外)が当人たちとは。
さすがに、異空間を作るほどの脳みそ構造でも、そこまで頭が廻る事は無いのか。
そして、古泉はその『機関』の一員として、閉鎖空間という、ハルヒの苛々によって生まれる異空間を極力無くす為に手を尽くしている。
あまりにも範囲が広いために、俺もさすがに呆れてきたところだ。
そして、俺は今日も演技なのだろうと、そう言った視線を送ったのだ。
俺だって、さすがに馬鹿じゃない。こう何度も騙されてたまるかってんだ。
だが、意外にも古泉は無意味に微笑みながら、首を横に振った。





「そう!じゃあ、明日から誕生会の準備よ!良いわね、キョン!」






そして、俺がその言葉に突っ込みを入れる前に、ハルヒは意気揚々と、半場強制連行された朝比奈さんを右腕に、そして本を読んだ状態のままの長門を左腕に抱え、部室を後にした。

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ