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□さよなら。
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「・・・・こいずみ」
どうしても、呼んでしまう。




緊張した帰り道。
当然の様に、古泉が笑顔で言ってくる事が分かっているからだ。
「今日も来ますか?」
僕の家へ。
ああ、断れないと知っているくせに。
毎回、そう思う。
だが、やはり断れない俺自身に嫌気がさしていた。
それでも。
それでも。
「・・・・ああ」


ああ、馬鹿だな。






     ◇◇◇




「早く服を着て出て行ってください。邪魔です」
「・・・・」
俺が、悪いんだ。
俺が全部悪い。



古泉に、好きになってもらえない俺が悪いんだ。
それに、俺が古泉と違って普通なのが悪い。それが、古泉にとって一番気に食わないところだろう。
俺は醜い。
俺は汚い。
俺は卑怯だから。
古泉に押され、ベッドから落ちた。
声も上げない。
文句は言えない。
俺に、文句はないのだから。
俺が悪い。
俺が悪い。


ああ、もうこれ以上古泉に嫌われない為には、この想いを捨てるしかないのだろう。
こんな風に意味のない、感情のない行為を重ねても、俺は古泉に嫌われていくだけなのだろう。もっと、深く。
そうだ。
嫌っている、大嫌いな相手に付き纏われて、好きだなんて言われて。



ごめんな、古泉。
「・・・・帰るよ」
ごめん。
迷惑かけて、ごめん。
ストレス発散だっていう名目でこんな行為を繰り返させて、ごめん。
俺が何もかも捨てればよかったんだ。
こんな簡単な決心さえもできないなんて、俺は何て馬鹿なんだ。
「・・・・じゃあな」
さよなら。
ばいばい、古泉。
俺は、もうお前の前には現れない。
お前には迷惑をかけるかもしれないが、俺が存在するよりはマシだろう。
卑屈な考えだが、これが一番だ。
そう思って、そう決心して。
最後に、古泉に嘘でも良いから「好きです」なんて夢みたいな言葉を言って欲しかった。
それが無理なら、ただ一度で良いから、俺に向かって微笑んで欲しかった・・・・なんて。
そんな、馬鹿みたいな俺は。
ゆっくりと、古泉への別れを惜しむかの様に扉を閉めた。



古泉は、俺が居なくなっても何も感じないだろう。
悲しみもしないし、
怒りもしないし、
喜びもしない。
俺は、それだけの存在だからな。
ああ、古泉。
少しでも俺を好きだと思っているなら。
そんな事は有り得ないだろうが。





俺の事を、すべて。
全部、何もかも。





「忘れてくれ」




さよなら。
ああ、一言だけでも。
嘘でもいいから。

愛して欲しかったよ、古泉。



涙も、もう枯れてしまった。

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