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□僕の決して悪くない憂鬱
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「で?さっきの誕生日は本物なのか?
 ハルヒを退屈させない為のプレゼントじゃねえのか?」





俺は、静かになった部室で古泉に聞いた。
すると、古泉は「心外ですね」と言いながら、俺と向き合う席に座った。
さっきまでハルヒが座っていた席だ。
俺は気にせず、かりかりとハルヒに押し付けられたSOS団専用の会計誌を書いた。






「心外ですね。
 僕の行動が全て涼宮さんの為ではありませんよ。
 先日も申しましたが、僕は『機関』の一員であり、高校生なのですから」



どうだか。
お前の話を聞いていると、全部ハルヒの為じゃねえかよ。



「そうですか?そんなつもりは無いのですが」




ハルヒの為に転校して、ハルヒの為に殺人現場装ったりしたこともそうだ。
お前の行動の全てが、ハルヒを中心に廻ってんだろ?どうだ、反論できるか?





「ええ、確かにそうかもしれませんね。
 三年前、『機関』に所属した瞬間から、それだけを目的に行動してきましたから。
 しかし、それでも僕も、無感情ではいられないところがありますよ?」




例えば何だ?服のセンスとか、か?それはそれでウケるぞ?





すると、古泉は微笑みを少し変えた。
にやり、と。
そんな、悪意の入った笑みだった様な気がした。





「例えばですか。
 服のセンスは残念ながら違いますよ。
 涼宮さんの趣味はとても優れていると思います。
 身に付けられている服装の、色合いも大変素晴らしいです。
 今、世の女性たちにはフリルの黒い短めのスカートに、カラータイツを合わせる服装が人気が高いらしいです。
 そして、流行を掴んでいらっしゃる涼宮さんは先週の日曜にお会いした時、そういった類の服装をしていらした」







そして、そこまで言い切った古泉は、向き合った椅子から腰を上げた。


ちらりと見えた笑みは―――どの笑顔とも、違った気がした。



「そして、
 僕が涼宮さんよりも優先させなければならないものは―――・・・・」




ぎしり。
そんな音で、机が軋んだ。
無理な体重を掛けられたのではなく、俺にはそれはちょっとした抵抗の様にも聞こえた。
だが、そんな音も。
俺には、酷く遠く聞こえた。






「―――――――――、、、、」






軋んだ机の音も。
夕日を背に飛ぶ鳥の声も。
聞こえてくる運動部員たちの声も。
聞こえてくるブラスバンド部の奏でる音色も。
先ほどまでは耳についてかなわなかった物が。
そして、俺の手からするりと抜け落ちた、シャープペンシルの転がる音も。






「・・・・キョンくん」
何処か近くに聞こえる俺の心臓の音に、掻き消されていた。




















     ◇◇◇








「―――帰ったわよ!」





そして、それから一時間くらい経ったくらいに、ハルヒたちが帰って来た。
朝比奈さんはハルヒの勢いに目を回している。
長門は、やはり無感情だった。
ハルヒはいつも通りに覇気を発しながら部室の中へ、ノックもでずに入って来た。



「俺の言ったものも買って来たか?
 変なもの買ってねえだろうな」



三人の手には、大きな紙袋が抱えられていた。
その中身は、パーティー用に百円均一にでも行って来たのか、とんがり帽子から可笑しな仮面まで、豊富な品が見えた。
中をはっきり覗こうとすると、
ハルヒが「明日の楽しみが無くなるでしょ!」と言って、朝比奈さんごと隠しやがった。
「・・・・・ひゃ、ぁ、・・・・はい・・・っ」
ハルヒに、如何して隠さないのかという説教を受けながら、朝比奈さんはあわあわと涙ぐんでいる。
メイド服のままそんな仕草を見ると、
みくるファン同盟の奴らや、長門を影で見ている奴らの気持ちも分からんでもないな、なんて思った。
すると、朝比奈さんは、
不意に俺の顔を見て、はっとした様な顔になり、俺の方へと歩いてきた。
驚いた顔で俺が慌てると彼女は俺の額に額をくっ付ける――などしないで、俺に言った。






「キョンくん、顔が赤いですよ?・・・もしかして、熱でもあるんじゃ・・・・」






俺は、その言葉に、
額までに迫った彼女の顔に驚く反面、顔を真っ赤にしているなどと言う展開など見せず、
そもそもそんな展開が無い――表情を硬くした。
やべえな、と内心冷や汗ものだ。






「本当ね。まさか、
『キョンくん・・・顔が赤いよ?もしかして・・・・』で、
『ああ・・・こ、これは・・・夕日が赤いからだよ』
 なんていう展開なんて言わないでしょうね?」






そうだったらラブコメよねー。
そんなハルヒの、軽く鋭い指摘に、俺はやっぱり内心冷や汗ものだったわけさ。
俺は、演技派の男優の様に冷静を装い、ハルヒの視線を受けていた。
何度も言うが、内心冷や汗なんてもんじゃないぜ。
サウナの中に一年間住んいでる、という比喩が適当だろう。
笑えない。



「よし!」




何がだよ。


「今日、キョンはもう帰って良いわ。
 その代わり、明日の放課後は誕生会だから、ちゃんと仕事しなさいよ!」


ハルヒは、言いたい事を言ってすっきりしたという顔をして、俺の鞄を手渡す。
やはり、病人(ハルヒ曰く、ラブコメ的要因だが)には親切なのか。
そんな事を思いながら、俺は席を立った。 その時、さっき落としたシャープペンシルも拾う。
そして。






「では、僕はキョンくんを送らせていただきましょう。
 今回の誕生会は、僕が主役という事でしたから、僕は、本日は御役御免という事でしょう。
 それでは失礼させていただきます」








俺は、楽しそうに腰を上げた同級生に、大きな溜息を付いた。
「じゃあ、頼みます」
そして、朝比奈さんに目をやり、
「じゃ、頼んだぞ」
そして、長門に声を掛け、
「ハルヒは無茶苦茶すんなよ」
そして、最後にハルヒに声を掛けといてやった。
「明日な」
こうして、俺はやっと部室から抜け出したのだった。



別に、重い足取りだったわけじゃないさ。
全ては、夕日が赤い所為だった。

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