Song Room

□夏恋模様(♂亀×田)
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プシュー。
各駅停車の電車が終点に止まる。

乗客はれなを含めて…2人ってとこ。
のんびりとお婆さんが降りていく。

…れなも降りんと。


「わ…やっぱいい風っちゃねぇ…」


都会の風が嫌いってワケじゃないけど、地元の風は、慣れていたのもあってか心地がいい。
すーっと大きく、体全体に染み渡るように吸い込む。


「…ただいま。」


そう自分につぶやいた。

帰ってきたんだ、ここに。
自分の小さい頃から大人になるまでを知っている、この場所に。





「あ…」


駅から歩いて数分。
通学に使っていたバス停を発見。
毎日使って、たまに駆け込み乗車して怒られたっけか。

…あれ?


「…こんなベンチ、やったっけ…」


白く綺麗に塗られたベンチ。
色が剥げたりだとか、ひび割れが入ったりだとかしてない。

ふと顔を上げて周りを見渡す。

…バス停自体も、結構綺麗…。
れなたちが使いよった頃は、台風とか来たら無くなる、なんて冗談にでもできんぐらいボロやったのに。


「…あれから5年ぐらいなんやけどなぁ…」


5年でこんなに変わってしまうっちゃね、なんてしみじみ思う。

…やっぱり、さみしい。

あのボロっちくて、今にも壊れそうだった当時のバス停には、いろんな思い出があるっちゃもん。





――――――――――

『うっわ、雨降るとか聞いてないんですけど!』

『やって、天気予報30%やったとよ?』

『そりゃ天気予報が悪い。てかさ、この雨の勢いでバス停の屋根落ちないよね?!』

『……』

『え、何その沈黙?!可能性あるワケ?!』

『…無いとは言い切れんやろ…』


…雨の日には、そんな話もしたっけ。

…うん、した。

バスが来るまで、くだらん掛け合いをしよったね。

――――――――――





そのうちバスがやってきて、荷物を抱え直して乗り込む。

…うっわ、人おらんし。


「…相変わらず、やね…」


やっぱり田舎やし。
通学とかの時間帯じゃない限りはガラガラ。

近くの席に腰掛けてしばらく揺られる。
懐かしい景色がびゅんびゅん通り過ぎる。

あぁ、帰ってきたっちゃねっていう実感が少しずつ増していく。


「んしょ…」


目的地に着いてバスから降りる。

…見慣れた景色。そして…。


「れーなぁああっ!」

「あ、さゆ…ってぇ、おぃいっ?!」

「ひっさしぶりーっ!!」


がばーっ!って音がまさにピッタリなぐらいの勢いで飛び込んできたさゆ。
荷物を持っているために、その勢いを相殺することもかなわず。
もろにさゆのアタックをくらった。


「いたっ!さゆ、痛いっ!!」

「5年ぶりだよ、5年ぶり!5年、さゆみを待たせた痛みは大きいの!」

「ちょ、は?!なんか、恋人みたいな会話なんですけど!」


アホか、って思いながらさゆをぐいぐい押しやる。
そのさゆの背中のほうから、また見覚えのある顔が。


「おー、お熱いカップルやざw」

「お邪魔しちゃ悪いかな?」

「…二人とも、ふざけんでどうにかして。」


にかーっと笑う愛ちゃんに、くすっと小さく笑う垣さん。
完全に今のれなの状況を楽しんどぉとしか思えん。


「いやぁ、5年ぶりか。久々やざ。」

「田中っち、大きくなったねぇ…とか言いたかったんだけどなぁ。」

「…垣さん、それ、結構傷つくっちゃん…;」

「ま、れーなはそのままが一番なの。身長も胸もちっちゃいまんまで。」

「!だ、誰も胸の話なんかしとらんやろ?!ね、垣さん?!」

「それはどうかなぁw」

「はぁああ?!」


普段はからかったりするような言動に乗っかる人やないくせに…。
れなが声を荒らげると、自然と笑い声が起こる。

…そうそう、こんな会話もした。
昼休みとか、放課後とか。


『うへへ、れーなは可愛いなぁw』


…一瞬、アイツの笑顔がよぎった。

首を少し動かして当たりを見回す。

…おるわけないやん。

懐かしい笑顔に囲まれる自分。
その笑顔の中にアイツも…一瞬だけ探してしまった。


「?どした、田中っち?」

「え?」

「どこ見てるの?」

「あ…いや、空がキレイやなぁ…って。」

「なんか、おばちゃんみたいやざ。」

「む…これでもまだ20代前半ですけど!」

「そんな怒んないの。」


咄嗟に思いついた言い訳をからかわれて、それに反論。
また笑いが起こる。

…うん、これでいい。

アイツの笑顔見てしまったら、何かが変わってしまいそう。
あの頃の大切な思い出は、綺麗なままで、心の中に置いておきたい。

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