Song Room

□あの日に戻りたい(♂亀×田)
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れなは、とてつもなく大きなものを失った。
当たり前すぎて気付かんかった…その存在の大きさに。
そばにおるんが普通やったけん…。





「れーな、今日も合コン行かないの?」

「うん…」


大学生活を満喫…とは言わんけど、十分に楽しんどるれな。
親元を離れて生活すると、いろんなことがあるわけで。

大学でも仲良くしてくれよぉさゆは、れなをいろんなところに誘う。
合コンのお誘いなんか週に二回はあるし。

けど、れなは絶対に行かん。
そういうところが好かんっていうんもあるし。


「はぁ…また人数あわせしなきゃなの。」

「ごめんっちゃ。」


ため息をついて、さゆが他の女友達のとこに行った。
れなは荷物をまとめて帰る準備をする。

今日はもう講義はない。
どっかブラブラして帰るかいな。





街に出てきたものの、行く先なんか決めてないけん、ただ通りを歩くだけになっとぉ。
お昼時っていうんもあってか、人の波がいつにもまして激しくて。
流されそうになりながら、それでも歩きを止めんかった。

そうしよったときやった。


「…った…」


どんって誰かと肩がぶつかった。
そんなん当たり前やけん、お互い少し頭を下げる程度で終わる。
れなが少し頭を下げると、相手も軽く頭を下げた。

…カップル、かいな?


「ね〜、あっちのお店行って?」

「また買うのかよ。俺の金、なくなっちまうだろ?」

「ダメ?」

「…分かったよ、甘え上手だな、お前。」


少し足を止めて、そのカップルの背中を追ってしまうれな。
昔の光景が頭を掠める。

…れなも、あんな風に甘えれたら、よかったんかいな…?





「れーなぁ、もう許してよぉ。」

「絵里が悪いっちゃろが!!」


高校生のとき、れなには彼氏がおった。
いつもれなのそばにおってくれて、いつもれなに笑顔をくれた、優しい彼氏が。


「だってさぁ、無視するわけにはいかないでしょぉ?」


ホント、今思えばくだらんことで腹を立てとったって思う。

れなの彼氏―亀井絵里は、とにかくモテた。
学校の中でも一番人気と言っても過言じゃなかった。

そんな絵里が告白されるなんか、日常茶飯事。
いい加減慣れればいいものを、れなは毎回怒りで返しよった。


「れながおるけん、答えは決まっとぉやろ?だけん、答えになんか行かんでも…」

「そうだけどさぁ。面と向かってごめんなさいって言ってあげたほうが、気持ちがすっきりするじゃん。」


絵里の言い分はもっともで。
れながわがままを言いよぉのは分かる。

でも、れな自身、気付いとった。
きっと絵里に、れなの気持ちに気付いてほしかったけん、こんなこと言ってしまったんやって。
もっと、愛してほしいって。
今の愛じゃ足りんって。

素直に言えばいいのに、れなは言えんくて。

…強気やったとね。


「もう、絵里なんか知らんし!」

「あ、ちょ、れーなっ!!」


絵里に背を向けて走り出す。
けど、足の遅いれなはすぐに追いつかれてしまう。
ぱっと掴まれた腕。

ほんの少しの距離を走っただけでも息があがるれなに、絵里は後ろから声をかける。


「ねぇ、何でそんなに怒ってるの?いつもはそんなに怒らないでしょ?」


れながどんなに機嫌が悪くても、絵里は優しい口調で話しかけてくれる。
その優しさは大好きやけど…あの頃のれなは、おかしかったっちゃろね。
なんか、心が壊れてしまっとったんかいな?


「…もう、嫌やけん…離してよ…」


腕をつかんどぉ力が緩まるのを感じて、れなは腕を振ってまた走り出した。

今度は…後ろから追ってくる足音なんか聞こえてこんかった。

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