リレー小説

□アイドル組のウィスパー
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はぁ、と深いため息をつく。

そういえば最後にネイルを直したのは5日前、ラメ入りのベビーピンクの下地が削れ爪本来の色が顔を見せている。
前から薄幸顔の駆け出しアイドルが、
「小野くんじゃないよね?」
と私の顔色を伺ってきたが、大して興味がない。


どうせいつもの騒ぎなんでしょう、竹中先生が9回目の鯖あたり遅刻をしてきて、徳川のバナナが盗まれて、小野が哀れにも濡れ衣着せられて最終的にブチ切れて。


「僕がそんな事する人間だと思いますか!?大体家康のバナナになんか興味ないし食べたら皮をゴミ箱に捨てるでしょう!?どうして僕の机の中に皮入れるんだよ僕に濡れ衣着せる気満々なのがすぐ分かるじゃないか家康もいちいち騒ぐなよいい加減!!!」

もうすぐ授業が始まるというのに、若い子は元気ねぇ、彼の怒鳴り声はきっと隣のクラスにまで響いてる。

「私、小野くんじゃないと思う。だって小野くん、河合くんのとこに行ってたから」
この子も私と同じ世界に足突っ込んでるとは思えない気弱な声で反論してみるけど、クラス中の全員が知ってる事よと教えたら
「そっか、そうだよね」と数学の教科書を取り出した。
一時間目から数学か、クソ怠い。

「とにかく僕に罪を擦り付けるのやめろ、バナナ欲しいなら自分で買って食えよ!そもそも家康がいつもカバン開けっぱで隣のクラス行くからこういう事が起きるんだよカバン持ち歩け!!」
という怒鳴り声が終わると同時に授業開始の合図が響く。
小野が犯人じゃない事も、徳川が懲りてない事も、皆分かっている事なのだから、とっととこの騒ぎを終わらせて欲しかった。

「ねぇ愛ちゃん」
前の席の牛山が、事有りげに私の顔に顔を近付ける。

「本当はね、私、犯人知ってるの」

明らかあの人でしょと指さそうとした私の手を制し、あのね、と動く彼女の言葉に耳を疑った。

本当はね、犯人は、


きっとこの子は入る業界を間違えた、と
売れっ子アイドルは顔をしかめた。


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2010,02,07

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