捧げ物

□キリ番1234(黒夜美羽様へ)
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「ウルキオラ…えと…あの…」

「何をうろたえている、女」

(そんなの当たり前だよ―!)

心の中の織姫が涙目になりながら思いっきり叫んだ。

今織姫は、織姫の家のベットに腰を下ろしているウルキオラの足の間に座らされていて、逃げられないようにと、ウルキオラに後ろからガッシリと抱きしめられていたのだ。


それは遡ること数分前。

夕食を終え、ベットに腰掛け、肩を並べて会話をしていた2人。

ふと、空になったカップに気がついた織姫がお代わりを用意しようとベットから立ち上がった瞬間、ウルキオラに腕を引っ張られ、為されるがままに前を向いた状態でポスンと後ろに倒れ込めば、そこはウルキオラの足の間。

驚き頬を紅潮させた織姫が瞬時に立ち上がろうとすると、ウルキオラにギュッと後ろから両腕で抱きしめられ、阻止されてしまった。

そして場面は始めに戻る。


「ウルキオラ離して!ほら!座りにくいでしょ!?」

「馬鹿を言うな」

「じゃあ、恥ずかしいから離して―!」

真っ赤になりながら、ジタバタとウルキオラの腕の中で暴れだす織姫。

「何を恥じることがある」

しかしいつもと変わらぬ冷静な調子の声が織姫の耳元を掠めた。

瞬間、ドキリと織姫の胸が高鳴り、ピタリと動きが止まってしまった。

ドキンドキンと高鳴る織姫の胸と顔に上ってくる熱。

織姫は、ウルキオラと密着している背中に全ての神経が集中していた。

「だって…近い…」

意識すれば更に恥ずかしさを感じた織姫は、俯きモゴモゴと呟いた。

「こっちを向いて言え」

耳元で響くウルキオラの声。

顔が見えなくても、きっと彼はいつもと同じ顔なんだ、と、織姫は恥ずかしさの中で、ふとそんなことを思った。

「で、出来ないよ。
だって振り向いたら顔が近いし…」

「こっちを向け」

織姫の言葉など構わず、振り向けと言うウルキオラは、いつもと同じ鉄面皮。

今更ながらに、逃れられないかと織姫は再度体に力を容れてみたが、ウルキオラの腕の力が強まるだけで、解放されることはなかった。

「……」

織姫は、困ったように真っ赤な顔を俯かせ、だんまりを決め込んだようだった。

「女」

「……」

何も答えようとしない織姫に、ウルキオラはひそかにため息をついた。

すると、織姫の体を拘束していたウルキオラの片手が離れた。

かと思えば、その手はすぐに織姫の顎を掴み、クイッと横向きにさせると、ウルキオラの顔と向き合う形となった。

すぐ近くで絡む互いの視線。感じる吐息。

驚き目を見開いた織姫の顔が瞬間的に更にボフンと真っ赤になった。

「は…は な し…て」

恥ずかしさで上手く話せなくなった織姫が途切れ途切れになりながらも、やっとのことで言葉を発しながら、目線だけをフイとウルキオラから背けた。

それと同時に織姫は、顎を掴むウルキオラの手首を両手で掴み、離してと訴えたが、やはり無駄に終わった。

あわあわと慌てふためき、真っ赤な顔をさせる織姫をウルキオラはジッと見つめたが、織姫は絶対にウルキオラに視線を合わせようとはしない。

「わかった。お前からしてきたら離す。」

「な…何を?」

離すという言葉にピクリと反応した織姫は、懇願するかのような潤った瞳をウルキオラに向けた。

そんな織姫を常の表情のまま瞳に映すウルキオラは、何も言わずに、ただ顎を掴んでいた手の親指で織姫の唇そっとをなぞった。

「!?」

ウルキオラの行動が意味するものは、つまり口づけ。

どうやら織姫からキスをすれば離してやると言いたいようだ。

それをすぐに理解した織姫は、カッと頬を赤く染めた。

普段はウルキオラからしてくれるそれを、自分からするということがどうにも恥ずかしいようだ。

「…え…と…ウル…キオ」

「やらないのなら長らくこのままか、或いは俺がそれ以上のことをし」

「わ―――!それ以上言わないでウルキオラ―!あ、あたしがやるから!」

モジモジしながら話していた織姫の言葉は、淡々としたウルキオラの声にて遮られ、そのウルキオラの言葉は、全てを言い切る前に慌てて叫んだ真っ赤な織姫が両手で口を塞ぐことによって遮られた。

「あの…目、閉じてて?」

ゆっくりとウルキオラの口を塞いでいた手を離し、両頬へと動かしながら、上目使いでウルキオラを見る織姫。

これでもかと言わんばかりの顔の赤さは、林檎も茹蛸も及ばないほどだ。

「何故だ」

「だって恥ずかしいもん…」

「俺はお前を見ていたい」

「ウ、ウルキオラ―…」

困ったような瞳を向ける織姫に、胸の中で何かが疼いたウルキオラ。

再度顎をクイッと上げると、ゆっくり、ゆっくりと顔を近づけていく。

え、あ…え…!?と急なウルキオラの行動に驚きを隠せない織姫は、後ずさりし、距離をとろうとすると、ウルキオラは腰に回していた腕に力を入れた。

その間も容赦なく詰まる2人の距離。

あと数センチという所で、ピタリとウルキオラが止まった。

すぐにでもキス出来そうな距離。

常よりあまりにも近い距離。

織姫の心拍数は上がっていく一方で…。

「俺はお前からしろと示したつもりだ。
後はお前からしろ。」

「う…あ…えと…」

ウルキオラの吐息で織姫の髪が揺れる。

先程よりも近くなった距離に更に慌てふためく織姫。

こうなるとわかっていたのか、織姫を見つめながら満足気な表情をしたウルキオラは、僅かに口許を緩めた。

(飽きん女だ。だが…)

もう限界を安々と超えている心拍数やら熱のせいで完全に目を回している織姫。

これ以上攻めるのは無理だと判断したウルキオラは、そっと双眸を閉じた。

それに気づいた織姫は、ウルキオラに視線を定めると、じっとウルキオラの顔に魅入った。

綺麗な白い肌に整った顔。

男の人なのに、ここまで綺麗なのは狡いなぁなどと織姫は心の中で愚痴りながら、意を決して顔を近づけようとした。

その瞬間、パチッと閉じていたウルキオラの瞳が開いた。

「気が変わった。俺がする。」

「ちょ…ウルキオラ!?」

ウルキオラは腰に回していた手に力を入れることで、更に体を密着させた。

真っ赤な織姫はパクパクと口を動かすだけで、声が出ていない。

「俺からするということは、わかっているだろうな。覚悟しろ、女。」

碧眼が織姫を捉えた。

「あ…あた しから…しろっ  て…」

やっと出た織姫の声は、あまりにも弱々しくて、ウルキオラを止めることは出来ない。

「お前が遅いのが悪い。」

(いきなりなんなの、ウルキオラ〜!)

織姫の心の声も虚しく、2人の影は重なった。

勿論、それだけで終わるつもりのないウルキオラは、織姫を更に抱きよせるのだった。








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dear.黒夜 美羽様
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