捧げ物

□キリ番3200(虎まる様へ)
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「怖いか」

そう聞いたのは本物の女を曝け出すため。

今まで弱さなど見せず気丈に振る舞ってきた女。

だが、藍染様に不要とされ、女を守るものが何一つとしてない状況で敵地に立たされる今ならば、この女の弱さを暴くことが…





金属と金属が激しくぶつかる音と共に火花が散った。

そして黒崎一護の一振りが俺の胸を掠める。

「どうも以前より、てめえの動きは読めるようになったみてえだ」

何の優越感に浸っているのか、奴は戯れ事を吐かす。

「てめえが人間に近づいたのかも知れねえな」

奴は何かを悟ったかのように強気な表情をした。

―――口が過ぎるな、黒崎一護。

俺は僅かに速度を上げ、奴との間合いを詰めた。






女は、弱さなどを見せはしなかった。

庇護が無くなったにも関わらず、以前と変わらぬ…いや、前以上の気丈さを見せた。

ここまで女を強くする心とは何だ。

―――映らぬものは存在せぬもの…。

目に見えない上に、破面である俺には到底理解不能だ。


心とは 何だ。






俺は黒崎一護の背中を捕え剣を振るった。

だが、その一太刀が奴を斬ることはなく、女の三天結盾により妨害され、役目を終えた盾が粉々に割れていく。

何かが、俺の胸をざわつかせる…。





女はもはや我々の同胞だ。だが女は、躊躇はしても結局黒崎一護を助ける。

邪魔だ、こいつを留め繋ぐ仲間も心も、全て。

同胞である事の妨げにしかならない。

何かが更に俺を支配していく。

無意味で弱い奴等に女が感情を向ける姿を見る度に、

女が黒崎一護の名を呼ぶ度に…。


―――まぁ いい。
今はそんな事など、どうでもいい。

俺は、藍染様の命を実行するのみ。

例え今、女が馬鹿な破面どもに襲われているとしても、俺は藍染様の命令故に何よりも黒崎一護の排除を優先しなくてはならない。

俺は黒崎一護の行く手を阻み、奴に冷淡な言葉を浴びせる。

俺との戦いの最中に他の事に現を抜かすとは、随分と余裕なことだな、黒崎一護。

しかし俺も、奴らの行動に、内から込み上げてくる黒い感情を感じずにはいられなかった。

普段奴らを下衆だと罵倒するよりも遥かに超える感情が俺を纏った。

そして、黒崎一護が月牙を撃とうと構えた。

…奴も頭の足りん奴だ。
何故女がいるにも関わらず月牙を撃とうとする。

俺の体は自然と動いていた。
驚き目を見開く下衆共に出た言葉も自然に、だった。

それら全ては、理性よりも先に本能が反応した証拠。



―――…俺は、女を殺せと命を下されはしなかった。
故に女を生かすつもりだった。

だが同時に守れとも言われなかった。
しかし俺は今――…







「勝たなきゃいけねえから…戦ってんだ…!」

心有るが故に人間はそれに足を取られ、無意味に堕ちていく。

黒崎一護もそうだ。
幾度と絶望を味あわせても、立ち上がった。
それを心ある故というか。

人間は愚かだ。
くだらない。

また、心 か。

そんなもの、全て戯れ事でしかない。








「丁度良い。よく見ておけ。
お前が希望を託した男が命を鎖す瞬間を。」

俺は黒崎一護の心臓の位置に指を当て、力を集約する。

―――仲間や心の中で、最も邪魔だったのは、女が固執する黒崎一護だった。

黒崎一護を殺せば、女は…―――。








「いやぁああぁあぁぁああぁああ!」

無意味だと言っても聞き入れない女。

無意味だと分からないのか、向かってくる滅却師。

どいつもこいつもくずだ。
心ある故に人間は愚かすぎる。













俺は姿が変わった黒崎一護により、地面に投げ付けられた。

人間が持つはずのない虚閃や響転に翻弄され、俺は黒崎一護に敗北した。

その後、奴の虚閃をまともに受け、最早動くことすらままならず、俺は地面に横たえるしかなかった。


俺は、人間如きに敗北したのか…
こんな俺など、もはや意味などない。
早くその刀を俺の喉元に突き刺し、俺を殺せ、黒崎一護。
俺は貴様に敗北したのだから。




「――くん!」

だが、

「待って 黒崎くん!」

聞こえた。




「黒崎くん!」

女が、叫んでいる

女が…――




また本能が俺を動かす。
勝負はついたはずだ。
奴に敗北し、意味などなくなった俺は、奴からの止めを待つだけだった。

しかし俺の体は、奴を攻撃するために動く。
女の声が合図のように。


―――…女。

女が絡めば、俺の常識も摂理も全て常に覆される。

俺は黒崎一護の背後に飛び掛かった。







奴の仮面が崩れ、女が奴の元へ駆け寄る。
奴は、人間とは掛け離れた虚の姿となり、仲間を傷つけた。
それにも関わらずお前は、何よりも先に、躊躇わず奴の側に行くのか…。

心配を、するのか。










奴と勝負をつけようした途端、突然俺の体が灰となっていく。

ちっ…ここまでか…

俺は黒崎一護に、殺せと言った。

しかし奴は殺そうとはしなかった。

最後まで思い通りにならん奴だ…





俺は女に視線を向ける。

瞬間、溶け合うように互いの視線が絡みあった。

…お前は、いつも苦しそうな顔しかしていなかったな。

自然と手が、求めるように女に伸びた。

普段なら、俺のこの行動を俺は馬鹿だと罵るだろう。

だが今は、

求めずには、聞かずにはいられなかった。


「俺が怖いか 女」

お前の仲間を傷つけ、更に人間の姿から遠退き、絶望の姿をする俺を。

「怖くないよ」

何ともいえぬ女の表情が俺を捕らえた。

俺は、驚きと共に何かが満たされる感覚がした。

全てを受け止められるような…

今、女の視線も言葉も声も、全ては俺だけにあって…、


「そうか」

互いの手が伸びる。

しかし交わる前に俺の指は灰となり、視界もぼやけ、女の姿さえも霞んできた。


だが

それは確かに視えた


その掌にあるもの


俺には理解できなかったもの






俺は欲していた。
それは根源的なもの。

俺は欠落しているが故にお前をわかることが出来ず、

自身が何を求めているのかすらも気づいていなかった故に、
無駄にお前を傷つけただろう。


俺は、お前をわかりたかった。
どうしても近づきたいと、俺は願っていた…。

今なら、わかる。
言い切れる。


最後に、こんな形で理解するとは、な…。



お前と出会い、
俺の無意味だった世界が色づきだした。

虚無である俺が、欲した。





そうか

これが そうか

この掌にあるものが

心 か






共に生き

俺はお前のただ一つの存在でありたくて













お前の全てを欲した






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