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□冬を越えよう
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「冬だね」
「……うん。…寒くなるから、今日はあたたかくして寝てよ?」
「もう、心配性だなぁ、純は」
 ちらちらと降る雪を見つめて、春歌(はるか)はすうっと微笑んだ。
 閉じられた窓から見えるのはゆっくりと地面へ落ちていく雪で、先ほど外へ出たときの寒さはこれだったのかと純は思った。
 今日は冬一番の寒さらしい。そうなると、雪が降るのも納得できる。
 純の目の前でじっと外を見つめている春歌に、彼は黙ったままその肩へ毛布を掛ける。すると彼女はありがとうと再び微笑んで、掛けられた毛布を小さな手でぎゅっと握り締めた。
「雪って、やわらかい?」
「そうだね……触れたらすぐに溶けてしまうかな」
「繊細なんだね、雪って……」
 まるでその手にあるかのように、彼女は空へそっと手をかざす。かざした手のひらの中に窓の外の雪が重なり、それは音もなく降っていく。純がちらりと春歌を見やると、彼女はシーツの上に手を下ろしていた。
「遊びたいな。早く元気になりたい」
「そしたら、一緒に遊ぼう。雪だるまやかまくら作って」
「楽しそう……純たちはいつもそうやって遊んでるんだね」
「自分たちで遊びを考えたりもしてるよ」
「そうなの? ならなおさら元気にならないとっ」
 両手で拳をつくり笑顔を向ける春歌に、純はどこか複雑そうな笑みを浮かべた。
 ……このベットから、起き上がれる日が来るとは思えない。
 彼女は生まれたときからずっとこのまま。ベットから起き上がることもなければ、地面を自分の足で踏んだこともない。
 春歌の世界は、窓から見えるものだけ。
「春が、楽しみだな」
 唐突に、彼女が言った。
「この雪が溶けたら春が来るでしょう? そうしたら、また一緒に桜を見ようね」
 ふわりと微笑む春歌に、純はこくりと小さく頷いた。視線の先には、雪の重みで今にも折れてしまいそうな桜の枝。……春歌も、病気の重みに潰されているのだろうか。
「……そうだね。まずは一緒に冬を越えよう」
 ぎゅっと力強く手を握り締めて、純は一人、目を伏せた。

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