信じてるから

□矛盾だらけの
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レギュ。
頭の中で何度も反芻されるその名前。
どうして、こんなにも馴染むのだろう。
インターナショナルスクールで仲良かった子の名前?
ううん、そんな名前覚えがないもの。
レギュラスなんて名前、サキュバスみたいな響きでしょ?
私のことだから、絶対忘れるはずがない。


あれ?サキュバスって何?
え?なんで忘れるはずがないの?



「……おい」



思考回路がぐるぐるぐるぐる。
考えれば考えるほど、私の考えは矛盾を見つけ出し、彼の話を裏付ける証拠が増えていく。



「おい、聞いてんのか」



なんなんだろう。
どうして?何が起きているの??
私は、一体何者なの。


レギュの言うように私は別世界の人間で、この世界とは縁がないハズなの?
それじゃあここにいる現実は何?
夢?



分からないことばかりに埋め尽くされ、息ができなくなる。
考えれば考えるほど、分からない。



「おいっ!!」

「は、はいっ!?」



がしっと胸倉を掴まれ、向日葵の思考は無理やり現実へと引き戻されることとなった。
彼女を現実へと連れ戻した張本人―――シリウスは、眉を吊り上げて、憎々しげに舌打ちをする。
あまりの殺気だった彼の様子に向日葵は慌てて両手を顔の前で振った。



「ご、ごめんっ!ちょっと考え事していて、話聞いてなかったっ」



彼女のその言葉にシリウスはさらに眉を寄せ、向日葵を睨んだまま、ずいっと彼女に詰め寄った。



「お前、次は殺すぞ」



ぞくっ
重々しい低い声でそう言われてしまい、向日葵は恐怖に固まった。
シリウスが離れて、椅子に座りなおす。



「その資料とこっちの資料の相違点はまとめ終わった。後は各地の伝承とかを調べてまとめるだけ」

「じ、じゃあ本探して来なきゃだねっ!」



引きつった笑顔を浮かべながら、向日葵はシリウスから羊皮紙を受け取った。
見てみれば、綺麗な字で、レポートがまとめられている。
きっと向日葵が考え事をしている間にも、しっかりまとめてくれていたのだろう。
本来ならば二人一組の課題だというのに。


やらかしてしまった。


向日葵は、小さくため息をついた。



「本、探してくるね……」



ただでさえシリウスに嫌われているというのに、こんなに失態ばかり繰り返していていいのだろうか。
今回の課題だって、本当ならシリウスは綺麗な女の子にペアを組まないか誘われていた。
そこを向日葵がまだ授業に慣れていないことを心配した先生が、よく一緒にいるからと強制的に組ませたのだ。
リリーがいればよかった。
ううん、この際女の子じゃなくたっていい。
ジェームズでもリーマスでもピーターでも、とにかくシリウス以外ならだれと組んだってよかったのに。
いかんせん、この授業をとっているのはいつものメンバーの中では向日葵とシリウスだけなのだ。



向日葵と組めと言われた時のシリウスの顔!
彼は隠そうともせず、ものすっごく嫌そうな顔を向けてきたのだ。
それにプラス女の子のきっつい視線。
苦手で怖いシリウスと組まされるという時点でかなり精神を削っていたというのに、向日葵の精神は滅多切りだった。



「東洋の伝承……と、西洋でいいよね」



めぼしい本を何冊か抜き取り腕に抱える。
一冊一冊が分厚いため、4冊以上持つのは質量的に無理だった。
往復するしかないかな。
諦めるようにため息をついたその時だった。



「それ持つの手伝いますよ?」

「いいんですか?すっごく重いですよ」



これ、と言葉を紡ぐ前に向日葵の手から本がなだれ落ちた。
どさどさどさっと大きな音が図書館内に響き渡る。



「わっ!?ちょっと何してるんですか!」



目の前の少年が慌ててしゃがみ、本を拾い出す。
向日葵はその姿をみつめたまま、固まっていた。
ただただ、本を拾い上げる彼の動作を見て、言葉を失っていた。



「向日葵、お前またなんかやらかしたのか!?」



背後から聞こえてきたシリウスの声に恐怖することなく、向日葵はただただ茫然と、少年を見つめる。
少年は、向日葵の視線に気づいて、にっこりと笑った。
立ちあがり、拾い上げた本を向日葵に差し出す。



「気をつけないとだめですよ、向日葵」

「……レギュ」



向日葵は震える手で本を抱きかかえた。
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