信じてるから
□狼と犬
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「騎士f3からd5へ。やった、クイーンゲット♪」
「うわ、最悪」
ここはグリフィンドールの談話室。
一つのテーブルで向かい合いながら、なにかの課題に取り組んでいる二人の姿を周りの者たちは遠巻きにして見ていた。
もちろん、彼等と仲の良いジェームズ、リーマス、ピーターの三人も、例外ではなかった。
「あの二人、本当に何があったの?」
「それは一番僕が聞きたいさ」
本当に不思議そうに首を傾げるリーマスに、ジェームズはただ肩をすくめた。
「もしかして、付き合ってるのかなァ?」
何も書かれていない羊皮紙の上で羽ペンを転がしながらピーターが何気なく呟く。
「いやー、それはないだろ」
「うん、それはないね」
二人は断言した。
「そ、そっか!そうだよね……っ!」
なにがそうなのか全く分からなかったが、この二人がそう言うならそうなのだろうと、ピーターは簡単に自分の意見を取り去るのだった。
だけど、しばらくシリウスと向日葵の様子を見ていた二人は、もう一度顔を合わせて言った。
「付き合ってないよ、ね?」
「あのシリウスに限って、まさかそんなことあるわけが……」
「俺がどうしたって?」
「あ、シリウス」
「「え!?」」
いつの間にかジェームズとリーマスの背後には、怪訝そうに眉をひそめたシリウスの姿があった。
先程彼がいたテーブルを見れば、チェス盤を片づけている向日葵の姿。
お前は手伝わないのかよ。と突っ込みそうになるのを押さえて、ジェームズはいつものように朗らかに笑いながら、シリウスを見上げた。
「チェスはもういいの?」
「あぁ、終わった」
「早かったね。さっきやり始めたばかりだろう?」
隣に座るシリウスに。リーマスが首を傾げると、シリウスは嫌そうに顔をしかめながら呟いた。
「決着がついたんだよ」
「シリウス勝てた?」
「(ギロっ)」
「ひっ!?」
哀れピーター。
なんとなく尋ねただけだというのに、シリウスは不機嫌さを隠しもせず、彼に当たるのだった。
「へぇ〜、負けたんだ」
意外だな。そう言って笑うジェームズをシリウスは唸り声をあげて睨みつけた。
「試しにあいつとやってみろよ。すっげー強ぇから」
「そうだね、じゃあお言葉に甘えて。向日葵ー!次僕とゲームしようよ!」
「え!?今片づけたばっかなんだけど!?」
「そんなの構わないって!ほら、やろうよっ」
席を立って向日葵に駆け寄っていくジェームズの背中を見送って、リーマスはシリウスを見た。
頭のいい彼は、彼女に負けるとは思っていなかったらしい。
負けず嫌いな彼らしいと、リーマスは思った。
「あいつも負けるに決まってる」
「そんなに向日葵ってチェス強いの?」
「みたいだな。本人はこれがやるの初めてらしいけど」
「え、そうなの!?」
ピーターの目が驚きで丸くなった。
その様子を、シリウスは鼻で笑う。
どうやら、思っていたよりは機嫌が悪くないみたい。
リーマスは、笑顔を浮かべたままシリウスに尋ねた。
「じゃあさ、どうしてチェスなんてすることになったんだ?相手はルールもしらない初心者なんだろう?」
面倒くさがり屋のシリウスのことだ。
初心者にルールを教えるなんてまっぴらごめんだろう。
その上、ただでさえ毛嫌いしていた向日葵だ。
向日葵も向日葵で、シリウスに対して怯えていた節があるというのに、とても楽しそうにゲームをしていた。
もうシリウスのことは怖くないのだろうか。
チクリと心が痛んだ。
「なんとなく。あと、ルールは教えてねぇよ」
「え?じゃあルールは知ってたの?」
「いや、知らないハズだった」
「……どうゆう意味?」
意味深な彼の言葉を深く突っ込もうとしたその時だった。
「うそだろ!?!?君、本当に初心者かい!?いくらなんでも強すぎだよっ!!」
「うーん、初心者のはずなんだけどねぇ」
騒がしい我らがジェームズの声に、3人はテーブルを移動して、ジェームズと向日葵の間に置かれている盤を覗き込んだ。
そこには、ナイトしか残っていない黒と、逆に、ナイト以外が全て残っている白が残っていた。
圧倒的勝利が、そこにあった。
「向日葵が白?」
「うん」
リーマスの質問に、向日葵は苦笑しながら頷く。
「すごいすごいっ!向日葵、ジェームズに勝っちゃったんだ!!」
「だから言っただろ?」
ピーターは自分のことのようにはしゃいでいて、シリウスは、言葉だけ聞けば分かっていたようだけれども、しかし、その顔は驚きの表情が浮かんでいた。
「ありえない!絶対偶然だよ今のは!向日葵もう一回!次こそ本気出すっ」
「え、あー、うん。いいけど……」
一瞬、向日葵が困った視線をシリウスに投げかけるのを、リーマスは逃しはしなかった。
シリウスはシリウスで小さく頷くなんて合図を返しているし。
「よぉーし、じゃあ行くよ!ポーンをd3からd5へ!」
「ポーンをb3からb4へ」
試合に見入る二人とは別に、リーマスは一人思案する。
二人の間に一体なにがあったのだろうと。
そっと、ローブのポケットに入れていたものをにぎりしめるリーマスだった。