桜蘭高校ホスト部【完】

□ 不思議な依頼
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「真綾ちゃんいつもありがとうねぇ。
はいこれ。
今月分の給料。」



そういって少しふっくらしている茶封筒を手渡す食堂のおばちゃん。




『ありがとうございますっ!!
 家に住み込ませてもらってる上に給料まで!!
 本当にいつもありがとうございます!!』




ぺこぺこと何度も何度もお礼を言う。
真綾の名前は比嘉  真綾。
15歳で、生まれも育ちも生粋の貧乏人です。


先ほども言いましたが、真綾は貧乏なので、物心ついたころから、家庭を助けるために働いていました。
それでも、家計は火の車で、なんとか、やりくりしながら真綾達一家は暮らしていました。



中学2年生になってある日のこと。
真綾が家に帰ってくると、知らない人たちが、家具をどんどん運び出していっていました。
反抗する真綾に手渡されたのは、1億3800万という借金の借用書。
意味が分からなくて、真綾は何もなくなった家で、一人、両親の帰りを待っていました。
でも、その日を境に、両親が帰ってきませんでした。



借用書と一緒に渡された手紙によれば、二人は、しばらく、逃亡の旅に出るそうで。真綾に、1億3800万という借金を残して、両親はそのまま旅に出てしまったようです。



そして、そのまま進級していたら、高校1年生になってたであろうこの春。
真綾は両親の残した借金を返すため、たくさんのバイトを掛け持ちしながら身を粉にして働いてます。



「お礼なんていいのよ〜。
 真綾ちゃんがいるおかげで、若い子の出入りは絶えないし、むしろお客様が増えて本当に嬉しいんだからぁ。」




この人は田中さん。
借金のかたに、住む家もなくなり、途方にくれてた真綾を拾って、養子にしてくれたんです。
おかげで、真綾は、衣食住には困らずに生活できています。
全くの赤の他人の真綾に手を差し伸べてくれた、すっごく優しいおばちゃん。
本当におばちゃんには感謝してもしきれません。



『そんなことないですっ!!
 それは、真綾のおかげなんかじゃなくって、おばちゃんの料理がおいしいからっ!』

「まったくもぅこのこはっ。
 謙遜なんてしちゃって♪」



謙遜なんてしてませんって!
だけど、そんなことをいったってもまた、褒められて否定してのイタチごっこだから。



『あの、おばちゃん!
 真綾、そろそろ次のバイトの時間だから、もう行くね!
 行ってきますっ!!』



ひとに褒められるってなんだかなれないから。
おばちゃんのお世辞攻撃から逃げるために、ちょっと早いけど次のバイトへ向かうことにする。
もう、おばちゃんっていうより、むしろお母さん的な存在に近いかもしれません。



そんなことを思いながら、真綾は次のバイト先へと走って向かう。
無駄なお金は使えないので、移動は基本、自分の足です。

あ、そういえば、さっき言い忘れていましたが、真綾は、両親が失踪した次の日から、中学をやめて、朝昼晩、ほとんど休まず働いているおかげで、残る借金は、1800万。


1億という大金は、家を売ったおかげで、かなり減って、助かりました。
ローンも払い終わってたし、今思うと、貧乏なくせに家だけは結構豪華だったから。



それから、真綾のたったひとつの持ち物は、小さいころから首にかけている金色の懐中時計。
小さなころに一度だけ会ったことのあるおばぁちゃんにもらったもの。
世界に一つしかない、真綾だけの大事な時計。
これだけはなにがあっても絶対に手放せません。
だから、借金取りが来た時も、洋服の中に隠して、何とか、取り上げられるのは回避したのです。



あ、話それちゃった。

えーと、それからそれから。
真綾は今、掛け持ちでバイトしてるだけでなく、勝手に都内で『何でも屋』を営んでいます!!

依頼料は0円〜上限なしという簡単な設定で、大きな犯罪以外はなんでも引き受けますという簡単なもの。

今までの依頼は、

●迷子探し
●迷い猫・犬(ペット)探し。
●家庭教師
●どっかの学校の部活の助っ人。
etc・・・。


学校に行ってもいない、いつもいつも働いていて、その上商売なんてしている真綾が、都内でカモにされないかって、不思議に思いませんか?

それはね・・・。

真綾は喧嘩が強いからですッ☆

両親が疾走して、真綾にも荒れてた時代があったわけですよ。
あはは。
気がついたら、いわゆる裏番というやつになってたわけで。




「お嬢さん、何でも屋??」



ききぃっ!!

突然後ろから声をかけられて、足を止める。



「その首にかけている、金色の桜の模様がはいってる懐中時計。
 何でも屋の印でしたよね。」

『えっ、は、はい!!
 えと、依頼ですか??』



息を整えて返事を返す。
実は、なんでも屋は、都内で地味に活躍してるので、知る人ぞ知る有名な仕事なのだ。
まぁ、無許可で勝手に商売しているんだけど。
ただの人助けといやぁ、何とかなったり。
お金はお礼だってー。
って。
うん。我ながら、よく考えたなぁ。と思うよ。

あ、それより。
声の主は、とても薄い銀色?の髪をした若い男の人。
声の調子とか、まだ顔に残ってるあどけなさからして、17、18ってとこかな。



「うん。
 急ぎの依頼なんだ。
 だから勝手にここでお嬢さんを待たせてもらったよ。
 」

『携帯の方にTELしてくれたらすぐにでもこちらが駆けつけましたのに。』



えっ?なんで借金まみれの人が携帯なんて持ってるのかって??
おばちゃんがなにかあると大変だからということで、バイト代から差し引きで買ってもらったのです。

いわゆる0円携帯というやつで、メールはほとんどしないし、いつも依頼とかバイト関連の連絡がかかってくるだけだから、たいして電話料がかかってるわけじゃないからたいして負担にはならない。

基本料金と、おばちゃんからの連絡で使った料金ぐらいかなぁ。



「いやいや、本当に急ぎで、今日の6;30までにしてもらいたかったからさ。
 ここで、捕まえて、直行したほうがいいかなと思って。
 噂で、ここで待っていれば、何でも屋さんが来るってきいたからさ。」



穏やかな笑みを浮かべながら、静かに話しかけてくる青年。
本当に、この人、さわやかですね。



『6時30分までにですか?
 ごめんなさい。
 すぐにはできません。
 これからバイトで・・・。
 終わるのが4時で、その次は5時からだから―――。
 その間でいいのなら。』



何かの依頼のためにあけてる時間その1。
いちぉ、この時間帯の依頼は結構おおいもの。



「うん。それで大丈夫。
 あ、それで依頼なんだけどー。
 ここではなんだからさ。
 うーんと、あそこの喫茶店で話さない??」

『あ、わかりました。』



今日は、早めに出てきて正解だったかも。
そんなことを思いながら、青年さんにつづいて、喫茶店に並んで入る。



「いらっしゃいませー♪
 お二人様ですか??」

「うん。奥の席お願い。」

「かしこまりました―♪」




店員さん、なんだかテンション高いなぁ。
それと、この人、通いなれてるみたい。
ずいぶんと親しげだし。



「お嬢さん、こっちどうぞ。」

『あ、ありがとぉございます。』



椅子をひいて、わざわざ席まで案内してくれる。
紳士ですね。
あ、次のバイトまで時間大丈夫かな。
ちら、と、時計を確認する。
よかったぁ。早めに出てたおかげで、あと30分ぐらいなら・・・。



「そういえば、お嬢さんの名前聞いてなかったよね。
 なんていうの??」



向かいのいすに座って微笑んでる、青年。
それから、いつの間に頼んだのか、店員さんがアイスティーとパフェを二つずつ机に置いてってくれた。



『あ、あの、真綾そんなお金ないんですけど!?
 あと、真綾、女じゃないです。男ですよ。』

「真綾っていうんだ。
 あ、それ気にしないで。
 依頼料ってことで、俺のおごり。
 
 男って、そんなわけないでしょ。
 こんなかわいい子が男の子のわけ―――。」

『あ、これ、かつらです。
 胸、触ってみたらわかりますよ。』



そういって、相手の手をとり、自分の胸に手を置く。



「なっ!?えっ///え!?」

『どうですか??』

「え、うそっ!?
 本当に男!?」

『はい。』



嘘です。
真綾が女だとわかると、依頼するときなめてかかる人がいるので、何でも屋の時は、男ということにしてるんです。
胸は一応、人並みにはあるけど、そこまで大きいわけじゃないから、さらしを巻いてしまえばおしまい。
そうすれば、胸は全然ないように見える。
そして、触ってみても、ないように感じるわけで。

髪の毛はふつーにずらなんかじゃないけど、女装してることなら、ずらっていっといたほうが都合がいいので。



「あ、そうなんだ。
 ご、ごめんね!!
 俺、てっきり女の子だと思って///」

『構いませんよ。
 よく間違えられますから。
 一応、この格好のほうが、みなさん依頼しやすいそうなんで、この格好してるだけなんです。((大ウソ。
 それより、真綾時間ないんで、早めに依頼内容を教えていただけますか??」



なんで、真っ赤になってるのかなぁ・・・。
男ということになってるのに。
男の胸触って照れるものなのかな・・・??



「ばればれですけど・・・
 そういうことなら仕方ありませんね///]

『えっ?
 いま、なんて・・・??』

「いいえ。気にしないでくださいっ//」



そういって、青年はふぅ。
と、一息ついて、話し始めた。



「依頼内容は簡単。
 埴之塚 光邦って子を倒して欲しいんだ。
 気絶させるってのが今回の依頼。」

『え、なんでですか??
 喧嘩・・・??』

「う〜ん。喧嘩といえば喧嘩だね。」



あいまいな答えですね。



「それで、報酬は1000万。」

『1000万!?』



えっ!?それって、真綾の借金のやく3分の1ですよっ!?



「理由は深く聞かないで。
 それで、引き受けてくれるかな・・・??」



そっと、真綾の反応をうかがう青年。
1000万・・・か。

とくん。
胸の中の何かがときめく。
この瞬間、真綾には、仕事スイッチが入ってしまった。



『その埴之塚 光公ってひとに喧嘩売って、ようは気絶させればいいんですよね??』

「うん。光邦ね。」

『了解です。
 引き受けましょう。』



にこっ。
と、静かにほほ笑む。

”目的のためには手段を選ばない。
 どんなことをしてでも、依頼をなしとげる”

この時、真綾の考えはその一つだった。



「まぁ、そんな簡単なことじゃないんだけどね。
 一応君、都内で、かなり強いって聞いたし。
 物は試しって感じだよ。」

『大丈夫です。
 必ず任務遂行いたしますよ。
 そういえば、あなたの名前、聞いてませんでした。
 なんていうんですか??』

「あ、僕の名前は、そうだねー、春でいいよ。」



そうだねー。って、完璧今考えたな。
まぁ、依頼主のこと、余計な詮索はしないことに決めてるから別にいいんだけどさ。
匿名なんてしょっちゅうだし。



『春さんですね。
 それじゃあ、依頼について詳しくお話し願えますか??』

「時間押してるんでしょ??
 詳しいことはこれに書いてあるから、次に会うときまでに把握しててよ。
 それじゃあ、えっと・・・・。」

『4時に??』

「うん。
 じゃあね。
 あ、ここのお茶代は僕が払っとくからさ。」



そういって、薄茶色の大きな茶封筒を真綾に渡し、春(仮名)さんは席を立つように促す。



『御馳走になりました。
 では、また後ほど。』

「うんじゃあね。
 真綾君。」



空っぽになったコップと、パフェがは入っていたグラスを残し、真綾は席をたつ。
おいしかった。
この書類、バイトの合間にでも読むか。


その後、真綾は、任務のことを考えながら、早く帰れるようにと、一生懸命バイト先で働いていた。
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