桜蘭高校ホスト部【完】

□うさぎのぬいぐるみ
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「誰もハニー先輩を悪いとは思ってませんよ」



良いながら、鏡ちゃんはいつの間にか、大きな紙袋を一つ、膝の上に抱えていた。



「それは?」

「ハニー先輩に贈り物ですよ」



紙袋を差し出される。



「ありがとう」

「真綾からです」

「え!?」



受け取り損ねて、紙袋はベッドの上に落ちてしまった。



「見送りに行った時に預けられたんです」



はいどうぞ。と、鏡ちゃんは紙袋を拾い上げて、もう一度僕に手渡した。



ありがとうと返す。



「何が入ってるんだろう」

「開けてみてはいかがですか?」

「そうだね」



紙袋から出てきたのは、ピンクのラッピング袋。
僕は、赤いリボンをほどいて、中身を取り出した。



「わぁ」

「へぇ」



黄色いチェック柄のウサギ。
僕がいつも持っているウサギと同じくらいの大きさだった。



それから、ウサギの胸元に見覚えのあるものを見つけた。
桜の模様がある懐中時計。



僕は静かにそれを手に取り、見つめた。



カタンッ



鏡ちゃんが携帯を手に立ち上がる。



「それじゃあ、俺はこれで」

「あ、うん。
お見舞い、ありがとうね」



鏡ちゃんが、病室の扉に手をかけた時、携帯にぶら下がった、灰色のウサギが目に止まる。
ウサギの目もとには、鏡ちゃんがしているのとそっくりなめがねがあった。



「鏡ちゃん、そのウサギ……」

「あぁ、これですか」



ウサギにチラリと視線を走らせて、鏡ちゃんは優しく笑う。
本当に、優しく笑ったんだ。



「真綾が、部員全員にくれたんですよ」



せっかくだからつけているんです。

そう言う鏡ちゃんだけど、優しい微笑みは消えない。


もしかしたら、鏡ちゃんも少なからず、真綾ちゃんのことを想っていたのかもしれない。



僕はそれを気づかなかったことにして、にっこり笑った。



「よかったね」

「部員全員違いますから、今度見てみてください」

「うん、そうするよ」



鏡ちゃんの灰色ウサギが、ゆらゆらと揺れていた。
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