短編集

□僕を揺さぶるもの
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夏真っ盛り。

空は濃い青に広がり、太陽がギラギラと輝き、野球部の打ったボールが遠く響く、むしむしした午後。蝉のけたたましい鳴き声が耳を突く。

閉じた瞼は視界を遮断する。感覚は絞られ。
感じられるのは、背に当たる冷たくひんやりとする壁と、彼の激しいキスと、腹に当たる――熱を持つ、勃った彼のモノだけ。

誰も居ないクーラーが効いた広い部屋で、彼と二人。それだけで緊張するっていうのに。

彼は半ば強引に、激しく唇を擦り付けてきて、僕はそれに抵抗なんてもちろんできるはずもなく、感じて喘いでしまう。

「ア、ッ」

抵抗しようとした手も、今では彼の胸に添えられ、彼の鼓動を感じるものになっていた。

熱く交え、唾液で濡れた唇は糸を作って離れる。

「好きだよ……」

とろけるような、甘ったるい台詞。
彼の凛々しい目と低い声が真っ直ぐ僕を捉える。捉えて離させてくれない。
視線だけで心が震え、頬を紅潮させる僕は、彼にベタ惚れなんだとつくづく思い知らされる。


口の中に入って来る、ざらざらした長い舌は僕の舌を求め。唾液とねっとりといやらしく絡まる。
甘美で淫らな音が恥ずかしい。
恥ずかしくて、ほんの少しだけ抵抗のつもりで彼の舌から逃げてみせる。しかし長い舌はもっと追ってきて絡めてくる。

「ッ…逃げるなよ」

唇をいったん離して、彼の顔を間近で見てみれば。
少しだけ息切れした声と湿った吐息が彼にも余裕がないことを告げてくれた。

束の間途切れたキスの時間を取り戻すようにキスが激しくなって、それとともに心臓が波打つのも激しくなっていく。

快感に身体の奥がゾクゾクと疼く。

「う、あ…っ」

思いもしない甘い声が出てしまった。
恥ずかしい。
しかしそれも快感に変わってく。

「ハァ……ンッ…」

彼が丁寧に、淫靡に舌を這わせてくるもんだから、あまりの気持ち良さに腰が砕け、尻餅をつきそうになったが、瞬間に彼に腰を支えられ、彼が言った。

「今日はもう終わり」

え、なんで、

一気に不安が広がった。
それは止まることを知らず。
さっきまで幸せに浸っていたはずなのに、彼の一言で心が不安に蝕ばれる。

「今日は抑え切れそうにない。……このまま最後までいっちゃいそうな気がして」

その台詞に不安は軽く吹っ飛び、赤面したのは言うまでもないことだった。


――――顔が熱い。耳までもが熱い。クーラーが効いた部屋にいるとは思えなかった。

気付けば赤面したのは僕だけではなく、彼も同じことになっていて驚く。

普段見たことの無い顔。いつだって余裕そうで、ひょうひょうとしていて、むしろ無表情に近いはずの彼が。
こんなにも頬を紅潮させて。

僕は呆然と彼の赤面を眺めていた。

「恥ずかしいから早く行けよ…っ」


クーラーが効いた部屋から一歩外に出ると、茹だる湿気、べたべたした空気がが肌にまとわり付く。

ああ、暑い。
涼しいなんていう言葉はどうやっても到底吐けない。
暑い。

そんなことを頭の中に走らせ、廊下を歩いていると、
映像を再生するかのように、さっきの彼がはっきりと浮かび出される。


ちょっぴり赤く色づいた彼の頬に、
熱い彼の身体。
情熱的な口付け。
激しく絡められる舌と唾液。
余裕の無い表情と声と息遣い。
抑え切れないと言った彼。


愛しくてただ、凄く優しい感情で胸がいっぱいになる。

大好きで堪らない。今にも溢れそうなほどに。
僕を揺さぶるような熱い気持ち。


僕の中が彼で埋め尽くされる。



“好き”


そう意識すると、身体の奥がじんわり熱くなって、



気付けば僕は振り返って走っていた。




僕はこんなにも彼が愛しい!

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