雲雀×骸
□君を失くした世界
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わけもわからない衝動で骸を襲ってしまった日から、早くも一年の時が経っていた。
あの時の季節はたしか、春だった。桜が舞っていたのを覚えてる。綺麗だと思ったことも。
それからめぐりめぐって、春が来た。今年も当たり前のように桜が咲き誇っている。
少しだけ、切ない気持ちになる。
それと同じように日常も変わらないと信じきっていた。絶対的に当たり前のもので、揺るぐことはないと。
(そうじゃなかったんだ)
骸はどこかへ消えてしまった。
あの日から僕の前にぱたりと姿を表さなくなった。当然といえば当然だ。
ボンゴレのボスである沢田綱吉には隠れて会いにいってるらしい。沢田綱吉は申し訳ないという様子で、骸の話題になると僕の機嫌を窺う仕種も時たま見せる。
彼なりに気遣っているのだろう。
だけど、辛いのも事実だった。やりきれなかった。
(それでも、)
どんなに時が経っても骸への気持ちは少しも薄れることはない。
それは今回のことで思い知らされた。
予想なんかじゃない。確信だ。
僕はきっと、骸をずっと想う。
なにがあっても。骸が僕を拒絶したとしても、好きな気持ちは揺らがない。揺らぐはずがない。
それほどの確信。
けれど、脳裏に浮かぶのはいつだって骸の痛そうな顔と寂しい後ろ姿だった。
僕が骸の前から去ったときの骸。
その骸に夢で責められてうなされた夜を幾つも越えてきた。たくさんの涙も流してきたし、骸の幻さえ見えてしまうこともあった。他の人を好きになろうともした。
逆に、骸に触れたくて我慢できない夜も越えてきた。
すべてのものを投げ捨てて、世界の果てまで君を探し出そうとしたこともあった。
それは完全に、雲雀恭弥という僕ではなかった。
色んなものが削がれていくような気分だった。
そんな僕をボンゴレ達は慰めようとしたけど、心が安らいだり落ち着くことは決してなかった。
僕が骸の居場所を壊してしまった。
その事実だけが色濃く、僕の心に蟠る。じくじくと焼け焦がれるように痛い。
けれど被害者ぶる権利なんか僕にはない。僕が辛いなら骸はもっと辛いはずだった。
胸が堪らなくきつい。
この締め付けられるほどの圧迫感は、骸を想う切なさ。
顔を両手で覆う。瞳を閉じて、想いを馳せる。何かが頬を流れた。
骸、骸。
君だけが居ればいいんだ。
他のものなど何も要らない。
ただ、愛したかっただけなんだ。
言葉で伝えたいのに君がいない。
君がいない世界がどれだけ意味なくてくだらないか。君にわかるかい?
(わからないだろうね)
目に映るもの全てを抹消したいと思うほどに、君がいなければ、どうなってもいいと思ってしまう。
僕が僕でなくなってしまう。
鳴咽が喉の奥から込み上げる。どうしようもない苦しさと悲しみに身体が小刻みに震える。
(どうして君がいないんだ)
色を失くしたモノクロームな世界で、僕は相変わらず君を求める。
(君を失った世界は、こんなにも褪せてしまった)
(お願いだから戻って来てよ、骸)