雲雀×骸
□君に触れることは罪?
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触らないでください?
骸は確かに、そう言った?
状況に頭が追い付かない。
瞬きが出来ない。
ただひとつ、わかるのは。
骸が僕を拒んでることだけ。手の甲の痛みがそれを物語っていた。
僕の存在を拒むようなオッドアイの瞳。憎々しそうに僕を睨んでいる。
視線が胸に鋭く突き刺さる。
そこがじくじくと痛い。
「…そんなに、嫌だったの?」
骸は黙る。僕に向ける瞳で読み取れとでも言うように、真っ直ぐに僕を見る。
僕と骸は男同士。君が僕を好きになることなんてありもしないと思う。恋人にはきっとなれない。だから、一瞬でいい。慰めでも気休めでもいい。触れさせてほしかった。
だけど、好きでもない人に触れられたら、誰だって嫌なんだ。そんな当たり前のことに今更気付く。
だけど、それでも。
この衝動は止められなかったと思う。
―――ただ、君に触れたかっただけなんだ。
そう言ったら君は怒るかな。
自ら壊してしまった関係に唇を噛み締める。
骸の瞳を見て、もう戻れないと知る。許してくれるはずがない。
「ごめん。――君に触れたかっただけなんだ。君が好きで」
ハッとして口をつぐむ。何やってるんだ、僕は。何を言っているのだろう。
こんなの何の罪滅ぼしになるのか。僕は、一体………
「何を……言いました?」
骸の目が大きく見開かれる。
僕はさらに関係を壊すつもりか。最悪だ。
「なんでもないよ」
そう、なんでもないことにしといたほうがきっと良い。
元の関係に戻りたいなんて贅沢なわがままは言わない。だからせめて、何もなかったことにしてほしい。
僕は下を向いていた。
骸がどんな表情をしているかなんて見られない。
俯いたまま立ち上がって、扉の前で止まる。そして呟いた。
「忘れていいよ。ごめん、骸」
「きょうや、く……」
僕を呼ぶ声が聞こえたけれど、それはあまりにも弱々しくて、扉を閉める音に掻き消された。
胸が張り裂けられる思いだった。その時、骸と僕の世界に隔たりができたのを感じた。それは離別を意味する。
もう、戻れない。終わった。そういうこと。
階段を下りる足音がやけに大きく響いた。骸が確実に遠ざかっていく。
そのまま扉は開かれなかった。
当たり前のことなんだろうけど、期待していたんだと後で気付いた。
外に出ると、風が僕を通り抜けていった。
どこまでも青く澄み切った空が、僕の心を反映させているように思えて仕方がなかった。
悔やんでも悔やみ切れない。
「………っ」
温いものが頬を滑って、それは顎から落ちていった。
滑っては落ちて。落ちてはまた滑って。滑っては落ちていく。
多分、それは涙だったと思う。