短編集
□俺様兄貴と大切な約束
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無かったことになればいいのに。
私の気持ちも
知博さんの気持ちも
あのキスも
なくなってしまえば、家族が壊れることなんて無いのに…
「絵里子…」
不意に知博さんに呼ばれた。
私が顔を上げれば、手を伸ばせば触れられる距離に知博さんが居た。
知博さんの手が伸びて
そっと私の髪に触れた。
ビクッと体が勝手に距離を置こうとした。
「何もしない。」
真直ぐ見つめられたら
身動きが取れなくなってしまう。
ずっと見つめられて、体に入った余分な力が抜けていく。
「絵里子…俺が嫌いか?」
「……。」
嫌いなんかじゃない。
むしろ好き。
大好き。
だけど、私はその言葉を発することができなかった。
「俺は、お前が好きだ。
義妹としてじゃなくて、一人の女として。」