あかいろのかぜ

□02.赤色のヒーロー
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赤色のヒーロー






小さい頃、強い男に憧れた。

俺は昔から目がつり上がっていて、目つきが悪かった。
そのせいなのか、こわいと言われたり、避けられたり、意味のわからない喧嘩をふっかけられたりした。
ぼろぼろになって家に帰ったときだってあった。

ちくしょう

腹が立つ。

強ければ、あんなやつら… と悔しさだけでがむしゃらに喧嘩に挑んで、初めて相手を倒した時はやってやったと、自分に惚れ惚れしたものだ。

何度も喧嘩や、よくわからないイザコザに呼ばれるようになった。
そうしたら自然と喧嘩の腕は磨かれていき、高校になったころには、俺の周りにはもう強いやつなんていなくて。

いつのまにか、仲良くしてもらっていたチームの人に頭の座をもらった。
別に喧嘩に勝ったからとかじゃなく、おさがりの服をやるよというノリだった。
そんなもんはいらなかったが、周りがどうしてもというもんだから(くれた人にも悪いし)、そのチームを貰った。
周りにはいつのまにか人が集まっていた。

それは俺の自信にもつながった。

俺が適当な高校に入って、気が緩んでいるころ。

相変わらず俺にくっついて来る数人のやつらと、暇な休日にだらだらと道を歩いている時だった。

誰かは覚えてないが、(相手は俺の名前を知っていたので、きっと一度一戦交えた奴だったのだろう)すれ違いざまに肩がぶつかり、難癖をつけられた。
むかついたから、その売られた喧嘩を買った。

結構狭い道でどたばたとやっていたんだと思う。
避けてはいたが、確かに人は通っていた。
俺は当たり前だが、目の前のケンカ相手のことしか見えてなかった。

「うぜぇ…!」

「わぁっ!」

どたん!

俺がこぶしを振り上げたとき、肘が強かに一般のひ弱な男に当たった。
一瞬、面倒くさいという言葉が頭をよぎった。

ケンカを吹っかけてきた相手への怒りの気持ちも萎え、俺はため息をついてその男に手を伸ばした。

いつまでも地べたにへたり込んでいたので、手首を掴み、ひっぱりあげた。
素っ頓狂な声をだして、おたおたと何かを言っていた。
手首が細い。めちゃくちゃ折れやすそう。

じっと掴んだ手首をみていた俺は、そのひ弱な男に呼ばれているのに気づかなかった。
Tシャツの袖をくいくい、とひかれて「あの、」と下から見つめられた。

なんか、女みてぇなやつ。

でも、そんな男に俺の心臓がたしかに鳴ったのが聴こえた。


俺はその時、何を言われたのかあまり覚えていない。


なぜなら俺の世界がその一瞬だけ、その男の控えめな笑顔でいっぱいになっていたから。


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