短編

□うさぎとかめ
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快兎くんは、僕がきらい。

それは周知の事実だった。

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「快兎ってお前のこと、本当に嫌いだよなぁ」
「あんなに毎回面と向かって言わないといけないくらいイライラするってことだもんなぁ」
「大丈夫か?気落とすなよ」

何回か、言われてはいたんだ。
悪気はなく、けらけらと笑うクラスメイトに僕は、曖昧に笑った。

僕だってわかってるつもりだった。でも快兎くんが毎回僕のところまで来て言葉を交わしてくれるから。快兎くんの言葉が柔らかいような気がしてたから。

だから僕は自惚れてしまっていたんだ。

あんなこと、言わなきゃ良かったんだろうか。

あの日から、快兎くんはまったく僕のところには来なくなった。

他の友達と笑顔で笑っている。

前と同じ状態に戻っただけじゃないか。快兎くんが気まぐれに、僕と少しだけ話してくれる。それに、慣れてしまったのだろうか。

ずきずきと、僕の胸は痛み、すぐに目に水が溜まってきて、それを零さないように、満たさないように必死に一週間過ごしたときだった。

「亀井」

制服の端を誰かにひっぱられた。

いや、“誰か”はもう知っている。以前毎日待ちわびていた声なのだから。

振り返ると、思ったとおり、快兎くんが僕の制服をひっぱっていた。
久しぶりに声を間近で聞いた僕は、また涙腺がゆるんだのを感じた。

「かい…とくん…?」
「あ、あの「かいとー!帰るぞー!」
「「…………」」

快兎くんがなにか言おうとしたと同時に、快兎くんの友達が叫んだ。
しかし、快兎くんはまったく動く気配がなかった。

「あの…?」

沈黙をやぶって僕が快兎くんに声をかけると、俯いていた快兎くんが、いきなり顔をあげて、僕をキッと睨んだ。

「快兎?」

先ほど快兎くんを呼んだお友達が、全く反応がないことを訝しんで、教室から、顔を覗かせた。

「ごめん。俺こいつと帰る」
「「え?」」

快兎くんの言葉に、僕も、お友達も何を言われたのかわからなくて、ぽかんとあっけにとられた。

「いこ」

「え、う、うん…あ、あのさようなら」

ぼーっとしていた僕の手をとって、快兎くんは教室を出た。僕は快兎くんのお友達に挨拶をして、ひっぱられるままに、歩みを進めた。

「あの…あの…」

僕が声をかけても、快兎くんは全く反応しない。
どうしよう。
もしかして、僕が仲良くして欲しいって言ったことに対して気持ち悪いって思ったから、話してくれないんだろうか。
それともこのあと言われるのだろうか。
ああ、どうしよう…
快兎くんのぬくもりを手のひらから感じながら、僕はどんどん悪い方向へと考えていた。
どうしたんだろう。
いつも、いつもなら何言われても、何されても、笑って終わりだったはずなのに…
笑っていれば…
笑っていればよかったのに…



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