捧げもの

□ディスプレイ越しの好き *匿名様へ*
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 春先の授業とは、人を眠りに誘うためにあるのではないか。




そう考えてしまうほど、俺は今堪え難い睡魔に襲われている。



おまけにこの授業は五時間目。


お昼休みを終えて腹が満たされると、次に来るのは当然眠気。



最初の十五分はなんとかなっていたが、さすがにそれから十分もすれば本当に危険な状態になる。




この席は窓側の後ろの方で教師からはあまり見られない位置にあるが、前の実力テストの結果が散々だったから今回は嫌いな授業も怠るわけにはいかない。





「ここにはこのXを代入して…」




教師の声が子守唄にも聴こえてくる。





(……一回くらい、平気だよな……)




堪え切れずゆっくりと頭を下ろして眠る体制になった時、ブーブーと自分にしか聞こえないくらい小さくバイブが鳴った。



すっかり眠る気でいたために、低い位置にある頭を上げるのはとても面倒な作業だった。





教師は教科書をちらちらと見ながら黒板に字を書いていて、今なら気付かないだろうと携帯を開いた。




待ち受け画面には新着メール一件という表示が出ていて、受信ボックスを見れば見知った名前が見えた。





クラスメイトであり、部活仲間であり、大切な恋人である松野空介からのメール。





内容はとてもシンプルな言葉数文字。









『半田寝ようとしてるでしょ』




少し驚いて、机二つ分離れた位置に座るマックスを見れば、相手もこちらを見ていて目が合った。



(……見られてたのか………)








『悪いかよ』






それだけ書いて、即送信。




返事はすぐに帰ってきた。






『悪くないよ

 すごくカワイイ』





たった二行だけのメール。




それでも会話は成り立つ。




『カワイイって言うな!』



眠気を押し退けて、素早く返信。







『だってかわいいんだもん!

 半田って、そういうところは魅力的だよね』




『授業終わったら憶えてろよ』






短い会話を何度も返して、たまに教師の様子を窺う。





少しずつ時間が経つにつれて、眠気も強くなっていく。



次のメールが来たら切ろうかな、と考えたころなかなか返信が帰ってこなくなった。



(マックスの方が先に切ったのか?)




それならもうこちらも切ろうかと悩み始めた時、ブーブーとまたバイブが鳴った。





下りてくる瞼を必死に持ち上げて、確認した。



ディスプレイに映し出されていたのは、たったの二文字。




『好き』




一瞬固まって、瞬きを何度かしてからもう一度確認した。


そこには間違いなく好きの文字があって。




(そういえば、俺から好きって言ったことなかったな……)





そんなことを思った。





付き合う時に告白してきたのはマックスで、相手は好き、と言ってくれたが、自分はただ俺も、と伝えただけだった。



それから数カ月たったが、思い返してみれば自分から想いを伝えたことなどなかった。




「…………………」




誰にも気付かれないような小さなカチカチという音が、自分には聴こえた。




送信のボタンを押して、送信完了の文字が出たのを見てから、今度は抗わずに身体を机にもたれさせた。





瞼はすぐに下りてきて、同時にまたバイブが鳴ったが今度はもう目を開けようとは思わなかった。




暖かい春の日差しが、窓を通して自分に降り注ぐ。



とても暖かくて、意識はすぐに消えていった。


















最後に送ったメールの、単純な二文字の『好き』という言葉を見て、マックスは何と思っただろう。




確認するのは、目が覚めてから…






















『半田可愛すぎ。キスしていい?』



「なっ、何書いてんだ、マックス!!」



「何って、キスしたいって「言うな!」……本気なんだけどな…」
























リクエストありがとうございました!


期待どおりになったかわかりませんが、松半です。


これからもご愛読を!

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