11/08の日記

22:23
Onedays〜新たなる出会いに想いを馳せてろ〜
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 スズメは案外新商品が気になるタイプのようだ。コンビニに行った時なんかは、10分くらいジュースコーナーに止まったまま動かない。デザートコーナーとパンコーナーではその倍掛かる。
俺がレジで会計を済ませてから約20分後、ふと思い出したようにそのうちの一つを手に取り、無言でレジに向かう。高い確率で、それは期間限定の商品や新商品である。

 今日のスズメの手にあるのはジュースとゼリーだった。500ミリリットルの紙パックの赤いボディに白い字で「第二話に続く!」と書かれている。大きめに書かれているからそれがその飲み物の名前なんだろうけど、…何ていうか…。これはツッコむべきなのか?
そもそも、第二話って、一話の内容がまったくわからないぞ!?そもそも何味なんだ!原材料は何だ!ていうか、そんな名前を飲み物につけるな!

「…長ったらしくてウザったいツッコミは終わったか、フクロウ?」

「第二話に続く」のパックに差し込んだストローからズズッと中身の液体を飲んでいたスズメが、とてつもなく退屈そうな眼を向けて言った。それはもう、俺の中の果てしなく大きな疑問などまったく相手にする気などないと、目だけで語っている。

「…俺の心を勝手に読むな」

俺の心に安息をください。どこまで人のプライバシーを踏みにじるんですか、貴方?

「知るか。そんなにこれが気になるなら残り全部やろうか?」

心を読む事に関してはまったく否定しなかったスズメが、「第二話に続く」の紙パックを差し出してそう言った。

「え、なっ…!?」

パックにはスズメが口をつけたストローが未だ差してあり、もしそれに口をつけようなら、俺はスズメと間接キスという恐ろしい現実を突き付けられてしまう。ファーストキスを男との間接キスで済ませるのは絶対に嫌だ。たとえそれが、校内で一番モテる人間ランキング女子の部・男子の部で一位を取っている外見が明らかに女子な男子でも!

「断る!」
「……深読みしすぎて気持ち悪い人が居る。わー先生、此処に地球上の酸素を無駄に消費している物体Aが居ます。すぐに焼却処分して息の根止めて世界を救いましょう。そうしましょう」

俺は物体Aかよ!他にもツッコみたい事はあるが、とりあえず今は断ってしまった事に対するスズメの返事の心配をしよう。運が悪ければ今の俺の言葉が俺の人生最後の言葉になる。或いは何かそれに匹敵する恐ろしい事があるかもしれない。とにかく危険だ。

「…要らないのか。わかった。なら、メジロにやる」
「…あり、がと」

俺に差し出していたパックを何の躊躇いもなく自分の左隣に座るメジロに渡した。メジロも何の躊躇いもなく、いつもの舌足らずな口調で礼を言ってそれを受け取った。

「あ、…あのぉ。スズメ、さん?」
「何だ?」

何だ?というか、その…、
「怒らないのか。断ったのに?」
普段なら間違いなくバリカンとか飛んでくるのに。
しかし、俺以上にきょとんとした顔で、スズメは当たり前に答えた。
「何で俺がその程度で怒るんだ。お前は物体A以下の名無しの物体になりたいのか?」
「あ、その…いえ…」
自分から名無しの物体になりたいと言う人はいないと思う。ただ、驚いただけだ。

「………」
「…あ!?」

気まずい空気に視線を彷徨わせていたら、スズメの隣で「第二話に続く」を飲んでいたメジロの様子に気付いた。

「………」
相変わらずの無言だが、その目は確かに、大好きなドーナツを頬張っている時にしか見せない、輝きを発していた。
それほど「第二話に続く」というものは美味しいのか!まさか!
慌ててスズメを見たら、自然と目が合って、その目が不敵に歪んでいるのに気付いた。笑っている、こいつ!
まさか、始めから俺が断る事を予想して美味いジュースをメジロに渡したのか!

目を輝かせて無言で「第二話に続く」を飲むメジロを見つめて、その味が気になって、過去の己の行動を後悔している俺が居た。15秒前に戻れるなら、スズメの飲み物を断った俺を殴り飛ばしたい。
なんせ、滅多に表情の変わらないメジロがあそこまで反応するものだ。気にならないはずがない!

「あ〜あ、フクロウが断るから、あんなに美味いジュース、メジロにあげちまった。残念だったな、フクロウ」

にやにやと凶悪な笑みを浮かべながら、スズメが手に取ったのは、新商品らしいゼリー。
クリーム色のプラスチック容器に、赤い文字で書いてあった。

「!」

俺は思わず、指差してそれの名前を叫んでしまった。

「『第二話、茜色の空に沈む夕日』!」


長ったらしい商品名を、一度も噛まずに言えた自分を褒めてやりたい。
直後、うるさい、とスズメに殴られたのだが…。

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