An offering
□【 A coming-of-age ceremony 】
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「おい・・・・お前は成人式、出るのか?」
『なんで?そのつもりだけど・・・・』
「ふーん・・・・・・・・」
出るつもりだと答えた途端に、由紀は不機嫌に黙り込む。
こんなだから、みんなが【由紀は変わらない】って言うんだよ。
卒業したらて寮を出ないといけないのに、帰国の目処が立たない両親に【一緒に暮らす】と宣言して、いつの間にか広めの部屋に引っ越してて、そこにあたしの荷物を運び込んで・・・・・2年。
そりゃその間に、由紀と何もなかったかって言えば・・・・・なくもないけど///
ずっと片思いだって思ってたし、一緒に暮らせるだけでもあたしのなかでは凄いことだったのに。
「そうですか〜?じゃ、よろしく〜♪」
そう言って、卒業式の後・・・さっさとアメリカに戻ってったうちの両親。
呆然と見送ったのは、寮生とあたしだけ。
成人式用に振袖を買ってあったし・・・・・久々に色んな同窓生たちとも会える。
なのに、由紀は不機嫌顔で。
何が気に入らないんだろう・・・・・。
着付けはなんと!
梅さんがめっちゃくちゃ可愛く着付けてくれることになっていて。
「あ〜!!夢だったのよぉ〜!!着付けしてあげるのが!」
そうウキウキと、声を上げる。
「めちゃくちゃ可愛くしてあげるわ!・・・由紀も惚れ直すくらいにね!」
『う・・・梅さん・・・・惚れ直すって・・・・・』
「あら、一緒に暮らしてるんだもの。好きだ位は言われたでしょ?」
『え・・・・・・・』
「え・・・・・・?まさか・・・・・」
『・・・・・・・・・よく考えると・・・・・何も言われてない・・・・かも?』
「なぁんですってぇ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」
結局、梅さんに呼び出されて懇々と説教されてきたらしい由紀。
でも、いまだに・・・・・何も言ってくれてない。
ま、嫌われてはいないのだけは分かってるからいいんだけど。
梅さんが来て着付けてくれて、ヘアメイクまでやってくれて・・・・自分でも惚れ惚れするくらいになった。
深い臙脂に金箔・・・・・結構華やかな振袖だった。
半襟にはレースが使われてて、それだけでも可愛いのに、アップにした髪にはこれでもかって位の花飾り。
「も〜、めちゃくちゃ可愛いっ!持って帰りたくなっちゃうわ!」
「・・・・調子に乗るな・・・・・夏男」
「あら・・・・・やきもち?」
「・・・・そんなんじゃねぇ・・・・」
朝一番に予約してた写真館で撮影をして、それから由紀の車で会場へ向かった。
その間も、由紀はちょっとむっつりしたままで。
『ねえ、由紀?何怒ってるの?』
「別に何も怒ってねぇよ」
『でも、眉間にしわが寄ったままだよ?』
「気にするな・・・・・」
『・・・・気になるってば』
「・・・・・」
『・・・・・』
会場付近に着いて、車を降りようとした時、由紀に引き止められた。
「おい・・・・・これ、持っていけ・・・・・・」
そう言って、あたしの左手を掴んで何かをつけた。
『え?由紀?』
「他の連中に、誘惑されないようにお守りだ・・・・・」
由紀があたしの左手につけたものは、シンプルなプラチナ台にダイヤの乗った指輪。
『・・・・由紀・・・・』
「・・・・お前はこれからも、俺のもんだっていうことだ・・・・」
呆然としてるあたしの額を小突くと、にやっと笑う。
「ほら、早く行って来い。あいつらが待ってるだろ?」
『う・・・うん・・・・行ってきます・・・・』
「・・・・終わったら、すぐここに戻って来い。ここで待っててやるから」
『・・・・・うん!』
会場で、亮と晃、佑の三人があたしの指に気がついて、雄たけびを上げる。
「・・・・よかったな・・・・・」
そう言って、啓一朗がやさしく微笑む。
「つうか・・・・龍海うるさい・・・・」
去年一足先に成人式を済ませたけど、一緒に来ていたらしい零が亮に絡む。
それで喧嘩になるのも、啓一朗と晃が仲裁するのも相変わらず。
『ふふふ・・・・・・』
久しぶりのこの感じ。
これからも、みんなと会うときは、こんな感じがいい。
きっと変わらないよね・・・・・変わらずにいたいね。
来月の亮の誕生日を過ぎたら、全員がちゃんとした成人。
『ねえ、亮の誕生日が終わったら、先生や梅さんも交えて一緒に飲んでみたいね』
「ああ、そうだな・・・・」
そして、式典の始まる会場に、6人で入って行く。
「おい、飲み会のこと、由紀に言っとけよ?」
『うん!』
式典のあと、それぞれの彼女たちと待ち合わせしてたりでゆっくりは出来なかったけど、また会う約束はしておいたしそれを楽しみにしようと思う。
そしてあたしは、由紀の待っている車へ急いだ。
2010-1-11