キリリク
□撃退-好きとは言えなくて-
-2000 Hit-
《犀瀾 様》
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ガタン・・ゴトン・・
朝ラッシュ時の電車の中…
毎日ギュウギュウに箱詰めされて、一時間もの間、耐えながらの通学。
僕は、高校に受かって直ぐ、父親の転勤で引越ししてしまった為、本来なら徒歩で行ける筈の距離だった通学ルートが一変してしまう。
あまり電車に乗ったことが無かった所為か、初めての定期券購入で胸を躍らせ、学校帰りの寄り道なんて物凄く刺激的で、何もかもが新鮮だった。
楽しいと思っていた電車通学が、こんなにも大変だったなんて現実は厳しく、ホントに三年間も通えるのか?と、数ヶ月も経たない内に挫折しそうな勢いである。
だから少しでも楽な姿勢で、酸素を確保出来る、場所取りに、毎日奮闘していた。
奥に入り込んでしまうと、四方圧力が掛かり酸欠になることが多い。最近は窓際でドアの隙間から漏れる空気で酸欠から免れる事を覚え、いつも出入り口のすぐ側を狙って待機させる。
今日も何とかゲット出来た…と窓から移りゆく景色を眺めていた。
しかし、安堵していたのも束の間、下の方で何かゴソゴソする動きに気付いてしまう。
そりゃ、こんなに満員なんだから体と体のぶつかりや、触れあいなんて至極当たり前の事なんだが、それとは明らかに違う…そう、故意的に触られている感覚なのである。
手の平で、尻の辺りをサワサワ撫でられ、時々揉(も)まれたりする。
ゴツゴツした手の大きさからすると、男性に触られていると察知した。
僕は男なんですけど?
あまりにも不愉快になり、どんな奴か見てやるって感じで、後ろを振り返る。
すると、極々、普通のサラリーマン風の中年男性だった。
メガネを掛け、真面目を絵に描いたような、模範的な存在に見えるのに、人は見かけに寄らずって言葉が当てはまると納得してしまう。
止めてもらいたくて、睨んだり体をずらしたりしてみるが何の効果もなく、逆に、その人を煽(あお)ってしまったようで、荒い息を吹きかけドアの方に押し付けられ、遂に下の部分にまで手を伸ばしてきた。
ちょ、ちょっと…、それはやり過ぎでしょ?
だけど、物凄い力でピクリとも動けなくなってしまう。
ズボンの上から何度も何度も擦(さす)るもんだから、他人の刺激により眠っているモノが起こされる。
だから!マズイって…
誰かに気付かれるのは避けないと…と、懸命に堪え、擦る手を掴んでみるが、全く止まってくれない。そればかりか、もう片方の手が尻の割れ目に沿ってキツク揉み始める。
・・・っく
眼をグッと瞑り、唇もキツク結ぶ。
いい加減にしてっ!
早く駅についてっ!
もう、そんな事しか頭にはなかった。
最悪・・
━学校に着き━
どんよりとした趣(おもむき)で教室に入り、自分の席でグタッとうつ伏せになる。
『よっ!』
かけ声と同時にバンっと背中を叩かれ、前の席のイスに腰掛けてきたのは中学時代からの親友で、同じ高校に受験した仲でもある人物だった。
無反応を示した僕に、前の彼は垂らした僕の頭をツンツンと突っつき、机の上に肘を乗せ覗かせてくる。
「おーい!朝っぱらから暗いなっ!悪い女にでも引っ掛かった?」
ったく…開門一番がそれ?
ムクっと頭を上げ、覗かせてくる相手を睨みつけてやる。
「おっ!ご機嫌ななめ!欲求不満か?」
「あのねぇ…、キミみたいに年中、欲情剥き出しの性欲人と一緒にしないでよねっ」
「あぁん?ンだよっ、それ!」
ぷぅっと頬を膨らませる彼を前にし、またうつ伏せになって答える。
「もう…、ボクに構わないで」
「オイっ!マジで何だよっ!オレに言ってみろよっ!いつも聞いてもらってるからサっ、今日くらいはオレが相談に乗ってやるって」
こんな事…言いたくない…
言えば絶対バカにされる
いつもは僕が聞く立場で、彼の悩みごとの大半は女性関係。
何組の誰がどうとか、どこそこのお店のなんちゃらさんの、メアドをゲットしたとか…
おまけに・・
誰とエッチしたとか…
ホントっ、僕からすればよくもまぁ…次から次へと、色んな女の人と知り合えるよなぁ〜って、驚く話ばっかで…
真剣な恋愛話はコレといってない。
『キラっ!』
そんな彼に、今朝のあんな事を口に出せば…どうなるかぐらい僕にだってわかる。
興味津々でチャカすに決まっている。
だから絶対に言いたくない
「オイっ!ムシすんなって!」
僕の肩を掴まれて、むりやり起こされる。
やや眉を吊り上げて、ジッとこちらを見据えてきた。