短編
□誓い
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「キラ…。俺…。ラクスと婚約したから…。」
つい先日、久しぶりにプラントから帰って来たアスランからの電話でそう告げられた。
アスランは僕の大の幼馴染みで物心ついた時から、お隣どうしの家に住んでた事があって、親同士仲良かったって事もあり兄弟のように育ってきた仲だった。
今僕は、両親と一緒に月に住んでいて近くの私立大学で新しいプロジェクトを立ち上げるとかで、声が掛かり科学研究所の遺伝子工学部に所属している。
アスランは、プラントの最高議長であるお父さんの補佐役として仕事の手伝いをしている。
徹夜の会議等が3日に1回の割合であったりと、仕事が多忙な所為でお父さんの方はプラントに在籍しており、ゆくゆくは移籍するんじゃないかと噂される中、アスランは未だに月に籍を置き、プラントと月の行ったり来たりの生活を続けている。
…で今回、婚約したとされるお相手はプラント一のアイドル的存在、歌姫のラクス・クラインだ。
僕もテレビとかでしか見た事なくて、あらゆるファンサイトに登録とかしてて、彼女のCDは全て持ってる熱狂ファンの一人であったりもする。
その『高嶺のはな』である彼女と僕の親友が婚約するって…聞かされた時は正直驚いた。
真っ先にお祝いしてあげなきゃいけないのは僕の役目なんだろうけど…。心底喜べないって言うか…。い、いや…、勿論、親友であるアスランの幸せは僕の幸せであり、とても喜ばしい出来事なんだけど…。
いつも共に歩んできたアスランに先越された…と言うか…今までみたいに常に一緒にいてバカやって騒いだり出来ない…とか思うと寂しくなる。
そして、天使のような歌声にいつも慰め励まされて、憧れ続けてきたラクスが更にもっと遠い存在になる…とか思うと切なくなる。
何か一度に大切なものが奪われ、心にポッカリ大きな穴が開いたような感覚に陥り、すごく複雑な気持ちになる。
「次の日曜日、ラクスの家でうちわだけの婚約パーティするから、キラ、オマエも来いよな。…てか、来なきゃお仕置きだゾっ」
なんて、冗談まじりで笑いながらアスランは僕をプラントにあるラクスの家に招待された。
プラントの入口近くに大きなショッピングセンターがあり、その中でも一際大きな通りのあるフラワーロードは、その名の通り軒並み花屋さんが立ち並んでいる。
ラクスは、いつもお花に囲まれて歌っているから、ここを通るとラクスをイメージして心が穏やかになれる。
「うわ―。きれいだなぁ―。…それに…、良いにおい。」
沢山の花の所為で、色々な匂いが混ざりフルーツに似た甘い香りに誘われて思わず立ち止まってしまった。
「お一つ、いかがですか?」
若い女性の店員さんに声を掛けられ
「あぁ。じゃあ…。プレゼント用にどれか選んで頂けませんか?」
そう注文した後、その店員さんは色とりどりの花を、かき集めて豪華で、それでいて品の良い花束を作ってくれた。
そして、ピンク色のリボンでまとめて僕に手渡してくれた。
「彼女へのプレゼントですか?」
「えっ?あ、まぁ…」
とっさに、ついてしまった嘘。違いますと言うタイミングを逃したばかりでなく、ラクスの事を『(ボクの)彼女』って呼ばれた言葉の響きに感動し一人舞い上がってしまっていた。
更に、僕の脳裏に住む悪魔が、彼女とのツーショットを想像させ恥ずかしながら頬を赤く染めてしまった。
「まぁ、照れちゃって…。その彼女、こんな素敵な彼氏がいて幸せ者ですねっ」
「…………」
「ありがとうございました。またのご来店お待ち致しております。次回は彼女とご一緒にいらして下さいね」
…って、悪気のない笑顔で送られ僕は、これからお祝いしようとする二人を裏切った罪悪感に反省の色を隠せなかった。
―ピンポーン―
ラクスの家は、家と言うより寧ろ、真っ白な大きなお城だった。
僕が一生働いて…更に、生まれ変わって一生働いても届かない程の豪邸で、やっぱ『高嶺のはな』だったって事を改めて実感した。
さっきまでの浮かれた気持ちは一気に冷め現実に引きずり込まれた感じだった。
アスランのヤツ…。ズルイよなぁ…。なんて、心の中で呟きながら門のチャイムを鳴らした。
「は〜い」
門から離れたドアが、ガチャリと重々しく開き、二人仲良く並んでのお出迎えだった。
その光景は微笑ましく新婚さんそのもので、お似合いのカップルだった。