キリリク

□〜健康診断シリーズ〜 T
『測定』
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《なぎさ紫苑 様》
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 「次の方どうぞ」

 「失礼します」


 今日はザフト入隊してから初めての身体検査である。

 軍人ともなると健康管理は必須条件であり、ましてやMSやMAなど戦闘機に搭乗しようものなら、事前に必ず検査が行われる。

 僕はザフトに入隊してからは、殆ど地上勤務がメインで、これといって訓練は受けていないから体力測定となると少々不安になるけど、健康管理に関しては常に気を遣っている…つもりだ。


 「はい、そこの身長計に乗って」

 白衣姿のその先生は、机に向かったまま何かの書類に記入しているようで、こちらを見向きもしないで指示してきた。

 「はい」

 とりあえず、今日は測定だけだとイザークさんから聞いてきたので、さっさと終わらせて今朝、お取り寄せで届いたばかりのチョコレート・タルトを食べたい…という事しか頭には無かった。


 僕は靴を脱ぎ身長計に乗ったのを見計らって、先生は立ち上がり測定を始めた。


 「ふーんっと…、169…,9…センチっと」


 「えーーっっ!!嘘っ!ちゃんと!も一回、ちゃんと計ってください!」

 「はぁー?」

 有り得ない!有り得ない!絶対、何かの間違いだよっ!

 だって…去年、測った時には170,1センチあったんだよ!0,2センチの差は大きすぎる。それでなくても、普段から小柄だの、女の子みたいだの言われているだけに、数値だけでも170センチ台はキープしておきたい所なのだ。

 僕は再度、足のかかとをきっちり付けなおし背筋をピンッと張って顎を下げた。


 「おっ?誰かと思えば…坊主じゃないか!」

 「えっ?」

 必死になってる僕の姿を、不思議そうに覗き込んで来たのは、黄土色の髪に淡いブラウン系の瞳、鍛え上げられた無駄のない筋肉が整うスラッとした体格のムウ・ラ・フラガだった。


 「ムウさん!何でここに?」

 「ん…?ああ、こちらさんの医師と、ちょっとした知り合いなもんでねっ。そいつが急遽、予定がつかないと俺に頼んできやがった。そりゃー最初は断ったさっ!けど、測定するだけだから簡単だと…引き受けちまったのさっ」


 いやいや…そんな問題じゃないでしょ

 「しっかし、驚いたねぇー。白の軍服なんか着てるから、まさか坊主だとは思わなかったなぁ。随分、偉くなったんだなっ」


 「偉くなんかなってないし、ボクは坊主でもありません」

 「はいはい。…で?キラくん。測定に、何か不満でも?」

 「もう一度、測りなおして下さい」

 「なんで?」


 な、なんでって…嫌に決まってるからじゃない!

 でも素直に言えなくて、見栄張ってるんだけど、そう思われたくなくて…意地になってしまう自分が恥ずかしかったりもする。


 「あぁー、なるほど!大きく見せたいんだっ!」


 ……っ、この人は…

 「男の子だもんなぁ〜、ハハハハっ」


 人が気にしてる事をズケズケと…


 「いいぜ!お前さんの希望通りの数字に書き換えてやる」


 えっ?うっそー!ホントに?


 「で?いくらがお望みかな?」

 「え?ホントに?本気で?後で、やっぱ止―めた!っとかって、無しですよ」

 「勿論!男に二言はない。エンデュミオンの鷹に誓ってそれは無い」


 そんなモノに誓った所で、信用出来るかどうかは別として…、彼の気が変わらない内に答えた方が良いよねっ

 「じゃぁ…170,2センチで…」

 ちょっぴり、見栄張ってしまった。だって、いくら?なんて訊き方するから…それぐらい、罰(ばち)当たらないよねっ


 「おっけー、了解!」

 そう言ってムウさんは測定表に記入してくれた。やったー!凄い!

 この人、普段はおチャラけで能天気なところがあって、実の所…苦手だった。けど、ホントは凄く良い人なんだぁ〜って思った矢先に、彼がとんでも無い事を言い出した。


 「じゃさー、次、体重量るから…全部脱いでそこに乗って」

 「はい?」

 今、なんて言いました?体重量るだけで何で全部脱ぐ必要がある訳?

 ってかそんなの聞いた事がない。普通、ごく一般的には服のまま測定して『1キロ引いておきますね』…ってな感じに、なるんじゃないの?


 「ほらっ、何してんの!ちゃっちゃとする!言う事聞かないんなら、さっきの無しねっ」


 わーっっ!!!!ハメられたっ!やっぱこの人嫌い!


 「あっそ!じゃ、やっぱ、書き直そうっと」

 「あー!!脱ぐ脱ぐ!脱げば良いんでしょ?だから、書き直さないで!」

 何をそんなに焦ってるのか、ホント…ボクってバカだなぁ〜なんて思いながらも、気が付いたらムウさんの側に寄って、ペンを持つ手を掴んでしまった。

 ムウはペンを置き、キラの手を掴み直し引っ張った後、クルッと駒付きイスで振り返る。
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