キリリク
□Sweet Lovely
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《朝霧陸 様》
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「だぁーーっ!!!!!もうっ!わかんねぇーって!!」
俺は今、目の前の問題集と格闘している。
「どうして、分かんないの?さっきは解けたじゃない…」
わかんねぇーモンはわかんねぇーんだよっっ!!
俺の名前は朱鳥(あすか)シン、18歳、高校三年、帰宅部、そんでもってバリバリの受験生である。
そして、俺の隣でカテキョしてくれているのは二つ年上の大学二回生、矢的(やまと)キラ先輩、そして…、俺の恋人でもある。…はず、なんだが…、未だ何の進展もなく日々、平凡に過ごしている。
っつか、有り得ないだろ?普通…!今時の小学生ですら、過激な性生活を送ってるってのに、良い大人がキスだってまともに出来ないようじゃ…俺、エッチする頃にはじぃーさんになってんじゃねぇーの!
えっ?俺の押しが足りねぇーってか?
ンなの…いつだって、直球のストライクゾーンだっつーの!
「なぁー、キラさん…」
「ん…?なに?」
「キスしてっ!」
「………っ」
目を閉じて口を尖らせて近づけると…
「この問題解けたらねっ」
なんて…サラッとかわされる。
この人にとって、キスはご褒美にしてあげるって程度でしか考えてなくて、それ以上の感情は全く持って感じられない。
俺のこと…どう思ってんだよ…!
ホントに俺たち…付き合ってのか?と疑いたくもなる。
まぁ…そもそも、この人が付き合うってことに対して、どう理解してるのかは、わかんねぇーけど…何でも基本ってもんがある訳で、淡白なこの人にとっては何か違う意味で理解してんじゃねぇーかって思う。
俺が初めてキラさんを見たのは、中学一年の入学式だった。
頭脳明晰、容姿端麗、生徒会会長をしていた当時中学三年のキラさんは、生徒代表で祝辞を述べていた時の事だった。
誰もが息を呑んだ。きめ細やかな肌に整った顔立ち、サラサラの栗色の髪を靡(なび)かせ、薄紫色の瞳は澄んだアメジスト。
祝辞の言葉なんて聞いちゃいない…。聞いていたのは、甘くてちょっぴりキーの高いハスキーがかった優しい声である。
俺は、脳天に直撃を食らった。
その人しか目に入らなくなり、その人を追いかけ、寝ても覚めてもその人で頭がいっぱいになり、虜になっていった。いわゆる…一目ぼれってヤツだ。
だけど…二つ年上だったその人は、当然の事ながら俺より二年先に卒業してしまう。
その差は決して縮まることはなく、卒業してからの二年間は只々…空しくて孤独感を味わってしまう。
それが耐えられなくて、卒業式の時に俺は…告ることにした。
『矢的先輩、オレ…、先輩と同じ高校に通いたい。だから、週末だけで良いからオレの家庭教師お願いしても良いですか?』
下心全開だった俺の言葉に、先輩は…『いいよ』ってニッコリ笑って引き受けてくれた。
あの笑顔は、失神するかと思ったほど、綺麗で…今でもハッキリ脳裏に焼きついている。
そして…汗と涙と努力の結果、晴れて念願の高校生になった訳だが、またしても同じ境遇になるのは必然的で、俺は懲りずにあの時と同じセリフを先輩が高校卒業の時に言ったんだ。
そしたら…、なんの迷いもなくあっさり引き受けてくれて、今に至るって訳だ。
え?それは恋人じゃないって?
違う違う!最後までよく聞いてくれって!
俺は、更に付け加えて言ったセリフがあるんだよっ!
『先輩…、オレ…、ずっと好きでした。大学受験も頑張るから、オレと…、オレと、付き合って下さい』
渾身の力を振り絞り、全身焼け付き溶けてしまうんじゃないかって思える程の、熱い告白を先輩は、三年前と変わらず『いいよ』って答えてくれたんだ。
え?勘違いしてるって?
だから、普通はそれって愛の告白でしょーがっ!それを受けたってことは、恋人ってことになるだろ?
デートだって月一で行ってるし…ってか、高三になってからは…春の花見以来どこにもいってないような気がする…。
って…今、何月よっ!8月だぜっ!四ヶ月もデートしてないことになるっ!
夏休みだってーのに海や、プールや、花火…はちょろっと行ったか…?いや、途中で大雨になり中止になったから、アレはカウントには入らない!…っつか入れたくない!
わぁ、わぁ、マズイよっ!コレは…
完全に俺一人の舞い上がりになってんじゃんか
『ねぇ…シンくん…?』
俺の意識がココとは違う…どっか別次元の世界にぶっ飛んでいるその時に、俺は愛しの人からの呼びかけを、聞き逃してしまっていた。
「シン…くん?」