キリリク
□誘惑-愛のかたち-
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《朽木軫 様》
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葉が生い茂る初夏の頃
春を名残り(なごり)惜しむ、一際強い風が通り過ぎていく。
日中の日差しを吸い込んだ、校舎のコンクリートは、夕方ともなるのにまだ熱さを放っていた。
少しでもその熱さから逃れたくて、日陰の方でチラつく二つの影があった。
壁に凭(もた)れる二つの影は、時折、寄り添っているかのように見える。
「なあ…、そろそろ起きないとマズいんじゃないのか?」
スースー寝息を立てながら、頭を垂らしている影に声を掛けた。
「んん……」
鈍い反応を示したその影は、隣りの肩へと寄りかかる。
ムニャムニャ聞き取れない寝言を吐き、動く気配がない。
肩に寄りかかった重たい頭は、ズズズ…と腹の辺りまで滑り落ちた。
「おいっ!本気で寝るつもりか?」
上から顔を覗かせ、無造作に乱れたサラサラの栗色の髪を掻き分け、匂いを嗅ぐかのように鼻のあたりで留めている。
「んんっ……」
ゴロンっと手前に寝返りを打ち丸くなる姿に、眼を薄っすら細めてクスッと笑みを零す。
きめ細かい頬を指でなぞりながら、壊れ物を扱うように、いとおしい表情をさせていく。
顔に近づけ…額にソッと、唇を落とした。
その温もりが伝わったのか、いきなりパッチリ眼を開ける。
ハッ・・!!
「眠り姫は王子様のキスで目覚めました…とさっ」
「ちょっ…、ア、アスラン!いま何時?」
ガバッと起き上がり、制服の胸ポケットやズボンのポケットを探(さぐ)りながら、何かを探していた。
「コレだろ?」
そう言って携帯電話を差し出す。
慌てて奪い取るように受け取り画面を開き、中を確認する。
「ヤバっ、もう、こんな時間」
携帯をピッポッパッ…と触りながら何かに焦っている風だった。
「ねぇっ!なんで起こしてくンなかったの?」
「はあ?起こしただろ?」
「ボクが起きてないんだから、そんなの起こしたウチに入(はい)ンないじゃん!」
「何だソレ…」
当てつけがましいのにも程がある。
自分が気持ちよさそうに寝てたんだろ?
俺は何度も起こした筈だ…
起きないキラが悪い。
キラはどこかにメールを送信した後、パタンと携帯を閉じ、プクッと膨れっ面になる。
「何だっ!その顔は!」
「だって…」
「だってじゃないだろう?お前が悪いんだろーが!」
ブウっといった顔つきで睨んでくる。
ムカッ・・
「ああー、こんなだったら、理性抑えずに犯してやりゃーよかった」
「なに…それっ」
クルッとキラの方に向き直り、両肩を壁に押さえつけた。
「ぃたっ…!」
更に顔を近づけ、碧(みどり)色の瞳は鋭く、妖しい光を放ち、抵抗する力を吸い取っていく。
「痛いよっ!離してっ!離してったら!」
もがけばもがく程、度ツボにハマり、スラッとしているアスランの腕からは、信じられない力で動きを封じ込められていく。
左右に振り回す首を、アスランの右手が飛んできて、キラの顎を掴み仰向ける。
噛み付くように口づけをされ、叫ぶ声が閉ざされてしまった。
「んんっっ…!」
それでも尚、抵抗を止めないキラを押さえ付ける為、アスランはキラの足に跨(またが)ろうと体を動かせた瞬間、キラの膝(ひざ)蹴りが鳩尾(みぞおち)にヒットしてしまう。
−ドゴっ・・
「…っく」
解放された唇を腕でゴシゴシ拭きながら、キラは立ちあがった。
「な、なにすんのサっ!」
痛みを抑えるように腹に手をやり蹲(うずくま)るアスランに怒りをぶつけてきた。
「キ、キラっ…」
「し…、信じらんない!このっ!バカっ」
「ま、待てっ!キラっ!」
タタタタタ・・・
ホントっ…何なんだよっ!
−ドンっ・・
「『わああっ!』…ったー!」
思いっきり走っていたキラは、出会い頭で誰かとぶつかってしまう。
「キ、キラ先輩じゃないですかー」
ぶつかった反動で、弾き飛ばされ尻もちをついているキラに、反射神経が抜群のシンはよろめきながら、踏ん張った体制で声を掛けてくる。
「だ、大丈夫ですか?」
手を差し伸べてみたが、自力でムクッと起き上がり、ズボンについた砂ぼこりを掃っていた。
「あっ!これ…、さっきの調理実習で作った物なんです。キラ先輩、甘いモノが好きって言ってましたから、張り切って作っちゃいました。どうぞっ!受け取って下さい」
小さなタッパーに詰められたクッキーを、キラの目の前に見せてみるが、俯(うつむ)いたまま、髪で顔を覆い隠している。
不思議に思ったシンは、下から覗かせてみると、潤った瞳からきらっと光る雫が流れていた