キリリク
□呪縛-女の気持ち-
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《美月花音 様》
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カラッとしない梅雨の時期は、何をするのも何処へ行くのも、憂鬱な気分になる。
今日は、会社の同僚と繁華街で、買い物に来ている。
というか、荷物持ちに付き合っているだけである。
人見知りが激しく、人付き合いが苦手な僕は、社内でも暗く目立った存在ではない。
それに加え、誘われたら断れない優柔不断な性格もあって、便利に使われているように思う。
本当は一人の方が気楽な訳で、休日は大抵、家でのんびりパソコンをイジりながら、ゴロゴロ過ごすのだが、買い物に誘われて先ほどから、色んなお店をハシゴしている状態である。
『はい、コレもなっ!』
ドサッと紙袋を渡され、僕は両手に紙袋を二つづつ持たされてしまう。
『次は…あちらのお店に参りましょう』
二人の女性は、僕の意見など聞く事もなく、さっさと歩き出すのに付いていくしかなかった。
二人の後を付いて行った先のお店に、一緒に入ろうとすると、片方が顔を赤らめながら僕に言ってくる。
「お前っ!何、考えてる?ココは、ランジェリーショップだぞっ!ヤ、ヤローは外で待っていろっ」
ポカンとしていると、更にキツク罵(ののし)られ外に放り出されてしまう。
「ほらっ、さっさと出て行けって!他の人にも迷惑だろっ?」
『それは、あまりにも可愛そうですわっ』
『お前まで何を言う?あいつは荷物持ちなんだぞっ!甘い顔をする必要なんて無いんだよっ』
店の外から、二人の会話が小さく聞こえる中、僕は出入り口に突っ立ているが、確かに店に入る客は、チラチラこちらを見ながら、何だか笑われている気がする。
迷惑にならないよう、店先で待機させてみるが、やはりコソコソ何か言われているようで、居辛くなり場所を移動する事にした。
そんな時、ポツポツと顔にかかる物があり、咄嗟に『雨?』と思った僕は、荷物が濡れちゃいけないと、ビルとビルの合間にある路地裏へと、隠れるように走る。
降り出した雨は、止む事なく更に激しくなり、どこかもっと雨宿りの出来る場所へと周りを見渡していると、奥の方から誰かの声が聞こえてきた。
『こちらへ来(き)んしゃい』
声のする方へと足を運ばせてみると、そこには小さなテントを張り、テントの中に机と椅子が納められ、椅子に腰掛けている人を見つける。
「ほれっ、中に入りんしゃい」
手招きされ、有り難い気持ちで中へと入れてもらう事にした。
「随分、降ってきたのう…」
「あ、はい…。入れて頂いてありがとうございます」
僕は、感謝の気持ちでニッコリと微笑んだが、その人の顔は黒いフードで覆われ、隠れていた。鼻だけが異様に高く突き出ていて、一瞬『魔法使いのお婆さん』?と思わせる容貌だった。
「買い物かい?」
顔は隠されたまま問われ、濡れないように荷物を胸に抱えながら返事をした。
「はい…。と言いますか、友だちが買った物なんですけどねっ」
「ほう…、荷物持ちかい?」
「ははっ…、まぁ…そんな感じです」
って、まんまなんだけどねっ…
雨の音が次第に大きくなり、まともに会話どころではなかった。
折角、雨宿りをさせてもらっているのに、この沈黙があまり好きではない。
かと言って、ペラペラお喋りって事も苦手な訳だから、このまま静かにスッと眠りたい衝動に駆られてしまう。
すると、お婆さんは何を思ったのか、いきなり僕の右手を掴み、広げさせた。
「な、なんです?」
まじまじと眺めていたお婆さんは、フフっと笑った感じで答える。
「お前さん…、人を好きになった事はあるかい?」
はい・・?
「自分の事も好きになれんようじゃ、無理もないかのう」
まだ…何も言ってないんですけど…
なんて思ったが、確かに…
自分のことは嫌いだ…
なぜ、自分は人間に生まれてきたのだろう…
大した欲望もなけりゃ、欲求もない。
友だちがいる訳でもなく、ただ一人でいたい…
きっと前世は、植物系だったに違いない…
名も無い草木や、花々でひっそり咲き、散っていく…
自分でも言葉なんて持たなければ、話さずに済んだのに…
って考える事は良くある。
「お前さん…?もし…、今の生活と、正反対になればどう思うかね?」
唐突にそんな事を言われても、ピンとこない…
いや、そればかりか、そんな事考えた所で、天地がひっくり返っても、なれっこない物をどう思うか等と、聞かれても答えようがない。
第一、今の逆の生活って…
なんだ・・?
―ザアアァ・・
雨音が自分の思考回路を遮断させていく。