激短編
□〜健康診断シリーズ〜 番外編 『不覚』
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午後のひととき…アフタヌーン・ティー、その名も『おやつタイム』を、こよなく愛し楽しんでいる人間がここにいた。
部屋の入口入った直ぐ正面には応接セット。その横に、一際華やかな絨毯が敷かれ、丸いダイニングテーブルと椅子が並べらている。
その大きなダイニングテーブルが隠れるぐらい、色とりどりのケーキやお菓子で埋め尽くされていた。
先程から、鼻歌まじりでドリンクバーの前に立ち、紅茶の種類を選びながら、いくつものポットに茶葉を入れお湯をコポコポ注ぐ。
ワゴンに飲み物を乗せ、スイーツの山へと運ばせる姿は、まるで可愛らしいメイドにも見えるのである。
『いただきまーす♪』
全ての準備が整い、至福の時を過ごし始めた…正にそのタイミングで入口の扉が勢いよく開いた。
「キラはいるかっ!」
急いできたのか、少々息を荒くさせながら入って来たのは、イザークであった。
「お前!何やってる!これはどーゆー事だ?きちんと説明しろっ!」
白い紙をペラペラ振りながら、ヅカヅカ入りキラに近づく。
紙を広げ見せ付ける…そう、それは警察官が被告人に対して書面を見せる…あのシーンのようであった。
キラはチラッと横目で見るが、目の前の方が重要らしく、気にも掛けないといった表情でケーキにパクついている。
ムカッ・・
「素…無視だぁ?!お前っ!これが見えんのかっ!えーっ!」
ややキレかかった口調で、手に持っていた紙を更に近づけて見せる。
「知ってる…」
口に物が入った状態で、モゴモゴしながら素っ気無く返って来た。
ムカムカッ・・
何だっ!その態度はっ!
こっちは大総督を筆頭に上層部から、懇々と説教された挙句、嫌味のおまけ付きでこんな勧告状まで持たされているのだぞっ!
それを…そんな屈辱を受けた俺の気持ちを、コイツはあっさり…一言『知ってる』だけで片付けやがって!
舐めんなよ・・!
「イザークも食べる?」
「お前、ケンカ売ってんのか?」
「イライラするのはねぇ、糖分が足り無いからなんだよ」
「誰の所為でイライラしてると思ってるんだ!」
「ボクなの?」
「他に誰がいる?何故、きちんと答えない?」
「だから答えたじゃない、知ってるって…」
「そーじゃないだろーが!俺が訊いたのは、何故、再々々検診などバカげた事になっているのか説明しろと質問したんだっ。知ってるだけでは、答えになっとらんだろーが!小学生でも分かるわっ!お前はそれ以下かっ!」
ああーっ!もう!
…っとに、コイツはっ!
そんなイザークの罵声もスルーされ、キラは自分の甘い世界に浸っている。
「うわぁっ…これ、おいひぃー♪」
・・・・・
「ねえねえ…イザーク、これ知ってる?コレねぇ、超有名なパティシエが何年も試行錯誤を重ねて、生み出された珍品の一つでねぇ…数々の受賞とスイーツ評論家に五つ星もらった超―レアものなんだよっ。一般では中々、手に入らなくてね、王族か、貴族レベルでないと無理なんだって。だからねぇ、ちょっと…裏ルートで入手しちゃったんだっ、へへっ!スゴイでしょ?」
「………」
腹立つ…を通り越して、呆れた。
イライラしている自分がアホらしく思えた。
何故、自分はこんなヤツに、こんな事で、熱くなっているのか分からなくなってしまう。
はあ・・
もういい…、考えないようにしよう…
そう思うと、少し余裕が出てきたのか、キラの右隣の椅子に腰掛けた。
「なんか飲む?」
「ああ…じゃあ、コーヒーを頼む」
「うんっ、わかった」
キラは布巾で口のまわりを拭いた後、デスク横にあるドリンクバーまで行き、ミルで豆を挽いてドリップさせている。
部屋一面コーヒーの香ばしい香りに包まれて、癒された空間に変わっていく。
…にしても、半端じゃないな…
目の前のテーブルに並べられた、大量のケーキを見て溜息が自然と漏れる。
コレ…一人で食うつもりなのか?
「イザークも好きなの食べて良いよ」
カチャカチャとワゴンにコーヒーを乗せて運んできた。
「お砂糖とミルクは?」
「砂糖なし、ミルク少な目で…」
「おっけー」
そう言いながら、イザークの真横に来てワゴン上で用意している。
・・・・・!!
イザークは今更ながら、ある事に気付く。
「キ、キラ…?お、お前…、何だ?その格好は?」
頭にカチューシャ、ノースリーブのデニムにジーンズの短パン、その上からフリルの付いたピンクのエプロンを着ている。
「なにが?」