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藍は、その異様に目立つ男を席へ案内した。

「こちらでございます。」

「なんだか無理に来たようだったな…」

「いえ、大丈夫ですよ。気になさらないで下さい。」

そう思うならあまり長居してくれるなよ。

完璧な笑顔がそう語っていた。







「エスプレッソ。」

「は?」

「エスプレッソだそうだ。」

「…食前にエスプレッソ?」

「何を頼むのもお客様の自由だろ。」

早くしろ。

キッチンで待機していた契へカウンター越しに伝えると、藍は小さくため息をついた。

「なんだため息なんかついて。」

「あぁ…あのお客様なんだが…」

「どうした。」

「なんか近寄るのが憚られるっていうか…違和感ないか?」

「違和感?」

「さっき寒気がするって言ってただろ?あれって」

もしかして


「なんだよ、今日もまだ帰らないのか?」


藍の続きを遮るように、神谷が眠そうに現れた。

「お客様がいらっしゃったんです。」

「皇の客じゃなくてか?」

「私のお客様でしたら私が接客してます。」

「珍しいな、あの人今日来ないのか。」

「オーナー、まさか待ってたんですか?」

「そんなわけねぇだろ…」

で、どんな客なんだ?

左手の煙草を藍に向けた。
向けられた煙を払うように、手をぱたぱたしながら顔をしかめて

「めちゃくちゃ目立つ銀髪と、めちゃくちゃ目立つ緋色のコートを着たお客様ですよ。」

そう答えた。

「は?銀髪?」

「どうしました?」

「あ…いや…」

「知り合いなんですか。」

「そんなわけない…だろ。」

「なんですかオーナー。歯切れ悪いですよ?」

はっきり言ってくださいよー。

音が少しむっとした口調で言うと、まことも続いて頷いた。

「ほんとになんでもねぇって!」

第一…
俺の考えてる人が当たっていたら…



とてもまずいことになる。





神谷の思考の端にそう浮かんだ。



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